イギリスと大麻・CBDの合法化/法律/歴史/ビジネス|完全まとめ

イギリスと大麻サムネ

今回はイギリスにおける大麻の法的状況や、ビジネス、歴史についてご紹介します。

大麻の利用について、英国では医療用、産業用、嗜好用の区別が法律によって明確に定められています。医療用としての利用は、内務省のライセンスのもとで生産、供給、輸入、輸出、所持、栽培が許可されています。ただし、喫煙による自己投与は基本的に禁止。そして嗜好用大麻の利用等は禁止されています。

目次

イギリスにおける大麻規制・法律・合法化状況について

イギリスでは大麻は合法なのでしょうか。医療用・嗜好用という観点から現在のイギリスにおける大麻規制・法律・合法化状況をまとめていきます。

医療用大麻

英国における医療用大麻の規制は、1971年薬物乱用法(Misuse of Drugs Act 1971)に基づき、クラスBの規制薬物として分類されています。医療用大麻製品は、大麻由来またはその成分を含む医薬品として認識され、スケジュール2に移行したことで専門医による処方が認められています。そのため、イギリスにおいて医療用大麻は合法になります。

2018年11月から医療目的での大麻製品の利用が合法化されました。専門医の処方箋に基づいて、他の治療薬が効かない場合にのみ使用できます。

現在、英国で市販許可を得ている医療用大麻製品には、Sativex(ナビキシモルス)とEpidyolex(CBD)があり、それぞれ多発性硬化症の痙縮や特定のてんかんの治療に使用されています。加えて、合成カンナビノイドのナビロンは、化学療法による吐き気や嘔吐の治療に認可されています。

未認可の医療用大麻製品については、専門医の判断によって個別に処方されると報告されており、特に未認可製品に関しては、専門医登録を受けた医師のみが処方を行うことができるとされています。

CBDは規制対象ではありません。CBDを含む食品やサプリメントは「新規食品」とみなされ、安全性評価と認可が必要となります。食品基準庁(FSA)は、健康な成人のCBD摂取量を1日10mg以下とするよう勧告しており、特に18歳未満や妊娠中の人、薬を服用している人は摂取を避けるべきだとされています。また、薬物乱用諮問委員会(ACMD)の勧告を受け、政府は市販CBD製品の規制カンナビノイド含有量を制限する方針を示しています。

規制に違反した場合の刑罰は厳しく、単純な所持でも最長5年の懲役や無制限の罰金が科される可能性があります。供給や生産に関与した場合、最長14年の懲役となることもあり、無許可の医薬品の製造・販売に関しても最長2年の懲役が適用されます。

嗜好用大麻

一方で、2018年の医療用大麻の供給解禁後も、政府は嗜好目的の利用を認める方針を取っておらず、嗜好用の大麻使用を許可するライセンスは発行されていません。つまり、嗜好用大麻は違法になります。医療目的以外での所持や使用は厳しく規制されています。

イギリスの薬物規制システム:クラス制度とスケジュール制度の違い

イギリスの薬物規制は、クラス制度スケジュール制度の2つの枠組みで管理されています。これらは互いに関連していますが、目的が異なります。


クラス制度(Class System)

目的: 薬物の有害性に基づいて分類し、刑罰の重さを決定する。
法的根拠: Misuse of Drugs Act 1971(薬物濫用法)
分類:

  • クラスA(最も有害)
    • 例:ヘロイン、コカイン、LSD
  • クラスB(中程度の有害性)
    • 例:大麻、アンフェタミン
  • クラスC(比較的低い有害性)
    • 例:ベンゾジアゼピン

スケジュール制度(Schedule System)

目的: 薬物の医療用途と管理方法を定める。
法的根拠: Misuse of Drugs Regulations 2001(薬物濫用規則)
分類:

  • スケジュール1(治療価値なし・最も厳格)
  • スケジュール2(医療用途あり・厳しく管理)
  • スケジュール3~5(管理レベルが緩和)
    • 例:スケジュール5のEpidyolex(CBD製剤)はほぼ規制なし

日本から渡航する際には注意が必要

イギリスでは医療大麻が解禁されましたが、厳格な規制のもと管理されており、旅行者にはアクセスできないと考えられます。また大麻関連製品を持って空港を出入りするのは、他国の法律に抵触する可能性があり、大きなリスクがあります。海外渡航の際はCBDを含む大麻由来製品を携帯することは避けましょう。

イギリスへの日本からの渡航の際には十分な注意が必要です。

※渡航される際などは、ご自身で必ず最新の情報をお確かめください。

大麻に関する政策・法律の変遷

法令・規則主な変更点
1971薬物乱用法(MDA)1971大麻をクラスB薬物に指定。大麻の所持、製造、供給、輸入、輸出を規制。
2001薬物規制規則(MDR)2001大麻をスケジュール1薬物に指定医療、歯科、獣医目的での一部規制薬物の合法的な使用を許可
2004薬物乱用法1971の修正大麻がクラスC薬物に再分類。
2009薬物乱用法1971の修正大麻がクラスB薬物に再分類。
2013薬物規制規則の修正Sativexをスケジュール4に指定
2018薬物規制規則の修正大麻ベースの医療製品(CBPM)をスケジュール2に追加。これにより、専門医による処方が可能に。CBPMの定義を規定。
2020薬物規制規則の修正Epidyolexをスケジュール5に指定。これにより、輸入、輸出が容易になり、医師による長期処方が可能に。
2021薬物乱用諮問委員会消費者向けCBD製品報告書CBD製品に含まれる規制物質の量に関する提言。消費単位あたりの規制カンナビノイドの総量を管理する必要性を提言。
2023薬物乱用諮問委員の政府の消費者向けCBD製品に関するアドバイスへの対応消費者向けCBD製品における規制カンナビノイドの量を制限する法律を制定すると発表。

歴史

イギリスと大麻の関わりは長く複雑な歴史を持っています。17世紀、当時大麻は主に船の帆やロープの材料として広く栽培されていました。産業革命期のイギリスにとって、大麻は重要な経済的役割を果たしていたとされます。19世紀に入ると、大麻の利用は産業用途から医療や娯楽へと拡大しました。医療用途では痛みや不眠の治療に使用され、同時に上流階級の社交場では娯楽目的での使用も見られるようになりました。

しかし、20世紀に入ると大麻に対する規制が強化されていきます。1928年の危険薬物法改正で嗜好用大麻が禁止され、1971年の薬物乱用法では医療用大麻もスケジュール1(医療価値なし)に分類されました。1990年代には警察の取り締まりが強化され、多くの人が大麻関連で有罪判決を受けるようになりました。特に少数民族の若年男性が取り締まりの対象となる傾向が強いという社会問題もありました。

2004年には大麻がクラスBからCに再分類され、所持罪が非犯罪化されました。しかし2009年には再びクラスBに格上げされ、規制が強化されます。転機となったのは2018年で、てんかんを患う少年ビリー・カルドウェル事件を契機に医療用大麻が合法化されました。これにより、イギリスでのライセンス付きの処方が可能になりました。

ビリー・カルドウェル事件とは:
重度のてんかんを患う少年が医療用大麻の使用を必要としたにもかかわらず、空港で没収され、発作を起こした事件。医師団が緊急医療事態であると指摘した後、ビリーの医療用大麻オイルの使用は一時的に許可された。この事件は医療用大麻の合法化を求める議論に政治的な支持を集めることになった。
参考 – The Billy Caldwell case shows how outdated the UK’s cannabis laws are

ビジネス・市場について

企業

イギリスの大麻産業をリードする有名企業を抜粋して紹介します。

企業名公式HP
Celadon Pharmaceuticalshttps://celadonpharma.com/
Kanabo Grouphttps://www.kanabogroup.com/
Jazz Pharmaceuticalshttps://www.jazzpharma.com/
Oxford Cannabinoid Technologieshttps://www.oxcantech.com/
  1. Celadon Pharmaceuticals
    医療用大麻の研究・栽培・製造に特化した企業で、EU-GMP認証を取得した英国初の施設を運営。2024年にはデンマークのValeos Pharmaと契約を結び、欧州市場への供給拡大を加速。
  2. Kanabo Group
    医療用大麻製品のオンライン診療プラットフォーム「Treat-It」を展開。慢性疼痛とメンタルヘルス治療に注力。2024年にはサービスを拡充し、株価が14%急騰するなど市場で注目を集めています。
  3. Jazz Pharmaceuticals(旧GW Pharmaceuticals)
    GW PharmaceuticalsはEpidiolex®(小児てんかん治療薬)を開発したパイオニア企業。2021年にJazz PharmaがGW Pharmaceuticalsを買収しています。英国市場での医療用大麻規制の基盤構築に貢献しました。
  4. Oxford Cannabinoid Technologies (OCT)
    オックスフォード大学発のバイオテクノロジー企業で、大麻由来の化合物を用いた新薬開発に特化。2021年にロンドン証券取引所に上場し、注目を集めています。

市場規模

Statistaの調査によると、イギリスのCBD市場は急速に拡大しており、特に2020年以降の成長が顕著です。収益面では、CBD製品の売上が最も大きく、2020年から2021年にかけて約1.9倍に増加し、その後も安定した伸びを示しています。医療用大麻と薬用大麻も成長していますが、特に医療用大麻の増加率が高く、2020年から2024年にかけて約7.6倍になっています。ユーザー数の推移を見ても、ライセンスが不要なCBD製品の利用者が最も多く、2020年以降の増加ペースが加速しています。全体として、CBD市場の拡大がイギリスにおける大麻関連市場の成長を牽引していることが明らかです。

収益

単位は100万USD (US$)2018201920202021202220232024
CBD製品102.60127.00161.80304.70315.50320.00323.20
医療用大麻0.180.693.009.0014.2019.2022.70
薬用大麻41.3743.8948.0955.0966.7586.1899.79
合計144.20171.60212.90368.80396.40425.40445.60

ユーザー数(利用者数)

単位は100万人2018201920202021202220232024
CBD製品2.753.394.456.239.1914.1217.57
医療用大麻0.060.070.090.120.130.140.15
薬用大麻0.010.010.010.020.020.020.02
合計2.813.464.556.369.3414.2917.75

ニュース・レポート

CANNABIS INSIGHTではイギリスの大麻に関するニュースや情報を発信していきました。近年、ヨーロッパではドイツが嗜好用大麻の合法化を果たし、大麻の法的状況に関しての動きが徐々に大きくなってきています。ヨーロッパの大国イギリスにもし動きがあれば、世界中に波及する効果があるでしょう。世論調査で、嗜好用大麻の解禁賛成の割合も過半数を超えてきています。今後も、どのような政治的ジャッジが行われるか注目していきたいと思います。

▼ 過去に取り上げたニュース

参考文献

※本記事は、日本国内ならびに国外での違法行為を助長する意図はありません。
この記事の内容は、あくまで読者の皆様のリサーチや学習の一環として提供しています。
法律に関する最新情報は各国の公式サイトをご確認ください。

編集者

CANNABIS INSIGHT代表/編集長
世界の大麻・CBDのビジネスや経済情報を調べています。

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