南アフリカにおける大麻の法規制は、近年大きく変化しています。特に2018年の憲法裁判所の判決により、成人による私的な大麻の使用・栽培が合法化され、大麻政策に新たな転換点がもたらされました。本記事では、医療用・嗜好用の両面から、南アフリカの大麻規制の現状や法的枠組みの詳細を解説します。
南アフリカにおける大麻規制・法律と合法化について
南アフリカでは大麻は合法なのでしょうか。医療用・嗜好用という観点から現在の大麻規制・法律・合法化状況をまとめていきます。
医療用大麻
南アフリカでは、医療用大麻は 1965年の医薬品及び関連物質法(医薬品法) によって規制されています。この法律では、薬物や医療用物質を スケジュール1からスケジュール8 まで分類し、スケジュール8が最も厳しく規制されています。
大麻の分類
- THC(テトラヒドロカンナビノール): スケジュール7 に分類されます。スケジュール7の物質は、原則として医療用途が認められず、保健省(DoH)の許可 が必要です。
- CBD(カンナビジオール):通常は スケジュール4 に分類されます。ただし、一定の条件を満たす場合は スケジュール0(店頭販売可能)となります。
医療用大麻の入手方法
- CBD:医師の処方箋があれば薬局で購入可能。SAHPRA(南アフリカ健康製品規制庁)認可医療機関経由で入手。
- THC(治療目的):医師の処方箋があれば スケジュール6 に分類され、薬剤師から提供されます。
- THC(その他の用途):個人的・産業的目的で使用する場合、DoHの特別許可 が必要です。
違反時の罰則
医療用途として認められない形で大麻を使用すると、最長10年の懲役(罰金の可能性あり) が科せられます。
嗜好用大麻
南アフリカでは、2018年の憲法裁判所判決(法務大臣対プリンス事件) により、大麻の個人使用が実質的に合法化されました。
法務大臣対プリンス事件(Minister of Justice and Constitutional Development and Others v Prince):
2018年9月18日に、憲法裁判所がケープタウンの南アフリカ高等裁判所西ケープ支部(高等裁判所)が大麻の使用、所持、購入、栽培を犯罪とする法律は違憲であると宣言した出来事。
個人使用の範囲
- 成人は 個人消費のために大麻を使用・所持・栽培 できます。
- 自宅に限らず、私的な場所 であれば使用・所持・栽培が可能です。(公の場所では不可)
- THCを含む大麻の植物材料 は、成人が私的に栽培・所持・消費する場合、規制対象ではありません。
一方で以下の記事にあるように法律と、法律の運用に乖離があることが人権委員会によって指摘されているなど、まだ問題は山積しています。

法改正の背景
1992年の 薬物および薬物取引法(薬物法) では、大麻の栽培・所持・消費が全面的に禁止されていました。しかし、憲法裁判所は この規定を違憲 と判断し、個人使用に関しては合法としました。2024年には成人の私的な大麻栽培と所持が正式に合法化されました。現在、個人での栽培は1人あたり最大4株まで許可されています。
大麻を取り締まる規制の変遷の一部
年 | 出来事 | 内容 |
---|---|---|
1922 | 関税物品税改正法 | 大麻を含む「習慣性薬物」の使用と所持が初めて全国的に禁止 |
1965 | 医薬品及び関連物質法(Medicines Act) | 薬物と医療用物質をスケジュール1からスケジュール8までの8つのグループに分類し規制。 |
1992 | 薬物法(Drugs Act) | 使用には最長15年、取引には最長25年の懲役刑が科せられる可能性 |
2018 | 憲法裁判所判決 | 私的空間における成人の大麻所持・栽培・使用を非犯罪化。公共の場での使用や商業販売は引き続き違法。 |
2018 | 個人使用の範囲定義 | 成人(18歳以上)が自宅や非公開の私的空間で消費する場合に限り許可。未成年への提供や公共の場での喫煙は厳禁。 |
2024 | CFPPA成立 | 大統領が「私的目的大麻法(CFPPA)」に署名。麻薬法から大麻を除外し、成人の私的栽培・所持を正式に合法化。 |
2024 | 医療用大麻の規制枠組み | 処方箋制度とTHC含有量に基づくスケジュール分類(スケジュール6・7)を導入。 |
2025 | 栽培数量の明確化 | 私的栽培可能数が成人1人あたり最大4株(開花株)に設定され、世帯単位での上限撤廃が検討されている。 |
日本から渡航する際には注意が必要
南アフリカでは嗜好用大麻の個人使用が解禁されましたが、全面的な合法化とは異なった規制になります。旅行者がどのように処罰されるかは未知数のリスクがあります。大麻関連製品を持って空港を出入りするのは、他国の法律に抵触する可能性があり、大きなリスクがあります。海外渡航の際はCBDを含む大麻由来製品を携帯することは避けましょう。南アフリカへの日本からの渡航の際には十分な注意が必要です。
※渡航される際などは、ご自身で必ず最新の情報をお確かめください
他の国の状況を知る


歴史
ロニヤ・ヴァイフラウフ氏がケープタウン大学に提出した法学修士論文によると、大麻は、1650年代に南アフリカで初めて文献に記録される前から、栽培され使用されていました。先住民は、レクリエーションや医療など、さまざまな目的で大麻を使用していました。植民地時代に入っても、大麻の使用は減少しませんでした。白人入植者の中には、娯楽目的で大麻を吸う人もいました。
19世紀に入ると、大麻に対する否定的な見方が現れ始めたとされます。しかし、20世紀初頭まで、大麻に関する法的規制はほとんどありませんでした。1903年にオレンジ自由国(19世紀に建国されたアフリカの国)とオレンジ川植民地で、大麻の取引を禁止する法律が初めて制定されました。その後、1922年の関税物品税改正法により、大麻を含む「習慣性薬物」の使用と所持が初めて全国的に禁止されたとされています。
最近のニュース
CANNABIS INSIGHTでは南アフリカの大麻に関するニュースや情報を発信してきました。南アフリカでは、2018年に個人使用と栽培が合法化され、ニュースも多くある地域です。アフリカの大麻の法規制、市場はまだまだ大きく成長する可能性があり、ドイツ含む諸外国の法規制の成熟度合いにも影響されそうです。これからもニュースを発信していきます。
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編集長のコメント・考察

アフリカ地域の中では南アフリカは最も大麻政策を推進している印象があります。実際に「週刊大麻ニュース」では南アフリカのニュースを数多く取り上げてきました。南アフリカでは「経済政策」と「憲法」の観点から大麻を合法化しようとしています。「経済政策」は要するに大麻によって儲かるか?、であり、大麻を経済成長の一つの要素にしようとしています。「憲法」は大麻規制が憲法違反に該当しないのかといったことになりますが、これは本文にあったように裁判によって大麻規制が変わりかけています。
これらが南アフリカの大麻政策を読み解く重要なポイントになるかもしれません。
南アフリカの大麻規制についてまとめてきました。アフリカ地域は日本人にとっては関係が少ないかもしれませんが、世界の大麻産業から見ると生産地の拡大や輸出入の規模拡大などアフリカ地域のポテンシャルが広がると大麻産業自体もより大きくなるかもしれません。
参考文献
- South African President Signs Marijuana Legalization Bill Into Law
- 南アフリカ、個人環境での大麻使用を合法化、販売にはノー、自家栽培には賛成
- Report of the International Narcotics Control Board for 2022
- Weihrauch, R. (2021). Criminalising cannabis in South Africa: a history and post-Prince discussion.
- Minister of Justice and Constitutional Development and Others v Prince CCT108/17
- Cannabis law and legislation in South Africa