ゲートウェイドラッグとは何か? 大麻・タバコ・アルコールと違法薬物に関する仮説

ci_gateway

大麻はゲートウェイドラッグだと言われることが多々あります。

ゲートウェイドラッグとは、より危険な薬物(例:コカイン、ヘロイン)を使用する前に使用する可能性が高い物質を指し、この仮説はさまざまな薬物をどのように規制するかを決める重要な根拠になっています。ゲートウェイとは、「入口」という意味になりますが、その通り、何らかの薬物が危険薬物につながるという仮説を反映した言葉です。

一方で、科学界ではその信憑性について、検証が行われている最中でもあります。今回は、ゲートウェイドラッグの概念と、特に「大麻」がその文脈でどのように議論されているかについて調査してみました。

本記事に日本国内での違法行為を幇助する目的はありません。

この記事は学習や調査の参考情報としてご活用ください。

目次

「ゲートウェイドラッグ」理論の概念と背景

ゲートウェイドラッグは、より危険な薬物(例:コカイン、ヘロイン)を使用する前に使用する可能性が高い物質を指します。一般的には、アルコール、ニコチン、大麻がこのカテゴリに含まれます。

ゲートウェイドラッグ概念の発祥は、1970年代初頭にデニス・カンデル(Denise Kandel)とその同僚たちによって提唱されました。カンデルは1975年に発表した研究において、薬物使用が特定の順序で進行するという仮説を立てました。この仮説によれば、薬物使用はアルコールとタバコの使用から始まり、大麻へと進み、その後により強力な違法薬物(ハードドラッグ)の使用へと至るとされています。

これがゲートウェイドラッグとその仮説の始まりです。以後、カンデルの理論は「ゲートウェイ仮説(Gateway Hypothesis)」として薬物政策の議論において大きな影響力を持つようになりました。

この言葉は広く社会に認知されており、辞書にも記載されています。例えば、Merriam-Websterという辞書では、「ゲートウェイドラッグは、アルコールや大麻など、より依存性の高い薬物への使用と依存につながると考えられる薬物」と定義されています。

大麻とゲートウェイドラッグ仮説の議論や研究

大麻がゲートウェイドラッグであるかどうかは、科学界で長年にわたり議論されてきました。

アメリカの国立司法省研究所の2018年の報告書によると、2008年から2018年までに公開された23の査読済み研究が分析されています。人間ベースの研究では、13件が大麻使用と後の違法薬物使用の間に有意な関連性を見つけられています。青少年期の早期大麻使用に関しては後の違法薬物使用を予測することが示され、ゲートウェイドラッグ仮説を支持しました。

また動物実験の例として、早い時期にTHCに曝露されたラットは、成人に達した際にヘロインの使用量を増やすことが示されました。

さらに双子をを対象に選択した研究も発見できました。この研究は大麻がゲートウェイドラッグであるという考えをサポートする研究です。

研究名対象集団デザイン主要な発見
オランダの双子研究2006オランダの双子一方の双子が17歳前に大麻を使用し、もう一方が後に使用したか全く使用しなかった双子のペアを選択早期大麻使用はパーティードラッグ(7.4倍)とハードドラッグ(16.5倍)のリスクを高めるが、定期的な大麻使用には差なし。
オーストラリアの双子研究2003オーストラリアの双子一方の双子が17歳前に大麻を使用し、もう一方が後に使用したか全く使用しなかった双子のペアを選択早期大麻使用者は他の薬物使用、アルコール依存症、薬物乱用/依存症が2.1~5.2倍高い。

しかし、アメリカの国立司法省研究所の報告書によると、因果関係を主張することはできず、データ量、その他の因子の検証、適用可能性、レポートの方法のバイアスなどの問題により、「ゲートウェイ」仮説に関する統計的な証拠が混在しており、大麻使用が必然的にハードドラッグ使用につながる明確な科学的根拠はないと結論付けています。動物実験結果は参考になるものの、人間の使用パターン(喫煙や摂取)と直接比較することは難しいとされています。

また双子研究は遺伝的要因を制御するが、環境要因(例えば、友人関係や薬物へのアクセス)を完全に考慮できない場合がある。また、観察研究では変数の制御が不十分な場合が多いとされます。

単純な因果関係を超えた説明

強い毒性のある違法薬物の利用について、必ずしも因果関係によるものではないという意見も見られます。

例えば、リスクを取る傾向や性格や、社会文化的要因、国ごとの違いなどの影響を指摘しています。さらに、薬物の累積曝露量や開始年齢が依存を引き起こす重要な予測因子であることが示唆され、特定の薬物使用を防ぐだけでは依存防止につながらない可能性があるともされています。

つまりアルコールや大麻が入口になる可能性がある一方で、特定の薬物の使用そのものは、必ずしも後の薬物使用や依存を直接引き起こすわけではない可能性がありうるというのがゲートウェイドラッグ仮説に対する反対意見の核心です。

研究で示された「違法薬物を利用することを予測する因子」を整理すると、以下のようになります。

  1. 共通の原因
    • 元々リスクのある行動をしやすい性格や傾向があるという仮説
    • 薬物全般への興味や、使用しやすい環境
    • 非行、危険な運転、無防備な性行為など、他のリスク行動との共通性
  2. 開始年齢
    • 薬物使用の開始が早いほど依存リスクが高まる
  3. 薬物への累積曝露量
    • 使った薬物の種類や総量が多いほど依存リスクが上がる
  4. 社会文化的要因
    • 特定の薬物に対する社会的意味合い(例: コカインの使用が危険とみなされる文化的背景)
  5. 国や地域による違い
    • 薬物の合法・違法の違い、有病率、社会の態度など
  6. 精神障害の発症
    • 内因性(例: うつ病、双極性障害)
    • 外因性(例: PTSD、不安障害)
  7. 背景有病率
    • アルコール、タバコ、大麻などの使用率の高さが、他の違法薬物使用との関連性を変える

大麻のTHC増加による複雑さ

ゲートウェイドラッグに関する、大麻のもう一つの複雑な要素は、近年のTHC(テトラヒドロカンナビノール)含有率の強化です。アメリカ疾病予防管理センターは、平均的な大麻草のTHCの濃度が2008年の9%から2017年には17%にまで達していると指摘しています。

こうした高濃度THC製品の普及は、従来の研究で想定されていた大麻とは薬理学的な特性が異なる可能性があり、ゲートウェイ効果に関する研究結果の現代における解釈をさらに複雑にしています。

アルゼンチンではこのような高いTHC濃度を問題視し、規制を改善しているというニュースも報じられています。

結論と今後の展望

現在の研究による証拠は、大麻がゲートウェイドラッグである可能性を示しています。

一方でそれと同時に、原因と結果の因果関係に関する研究は確立されておらず、さまざまな要因が関与している可能性があります。さまざまな文献で、追加の研究が必要であると強調されています。特に因果関係を明確にするための縦断的疫学研究が提案されています。

縦断的疫学研究:同じ集団を長期間追跡し、時間の経過に沿ってデータを収集する方法。薬物使用の順序を明確にできるため、因果関係を推定しやすい。

大麻のゲートウェイドラッグ理論をめぐる議論は、単純な「イエス」または「ノー」では答えられない複雑な問題です。年齢と使用頻度、個人の脆弱性、文化的・社会的要因、そして大麻製品自体の変化など、多くの要因が関与する可能性があるため、多角的な視点からの研究が待たれます。

参考文献

※本記事は、日本国内ならびに国外での違法行為を助長する意図はありません。
この記事の内容は、あくまで読者の皆様のリサーチや学習の一環として提供しています。
法律に関する最新情報は各国の公式サイトをご確認ください。

編集者

CANNABIS INSIGHT代表/編集長
世界の大麻・CBDのビジネスや経済情報を調べています。

目次