大麻・CBDとうつ病の関係とは?

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大麻は、精神活性化作用があることから様々な国で規制されてきた歴史を持ちます。日本のように大麻植物やTHCが規制されている国は当然のことながら、合法化国(ドイツ・カナダなど)でも年齢規制が敷かれていたり、長期利用についてはリスクがあるとされています。そのリスクの一方で、医療用大麻製剤を用いることでうつ病を改善できるかどうかの研究が進んでいます。

この記事では、大麻の使用がうつ病のリスクにどのように関連し、また大麻製剤がうつ病の治療にどのように寄与する可能性があるかについて、研究文献などを基にまとめてみました。

本記事は日本国内外での違法行為を幇助する目的はありません。THCを基準値以上含む製品の使用等は法律で禁止されています。学習や調査の参考情報としてご活用ください。また健康上の判断につきましては、必ず専門的なアドバイスを受けてください。

目次

大麻の使用がうつ病発症のリスクに?

研究によると、大麻の使用とうつ病の発症リスクには統計的な関連性が見られ、大量の大麻使用はうつ病のリスクを著しく高める可能性があります。複数の研究が、大量の大麻使用とうつ病リスク上昇の関連性を明確に示しています。

この関連性は単純な因果関係ではなく、双方向性である可能性も考慮されています。Horwood氏(2012年)やWilkinson氏(2016年)の研究では、大麻の使用がうつ病のリスクを高める一方で、うつ病自体が大麻の使用を促進する可能性も示唆されています。これは、気分調節に関わる内因性カンナビノイドシステムの役割と関連していると考えられます。

しかし、一次文献の中には、社会人口統計学的要因(人種や年齢)などを考慮すると、この関連性が弱まったり、消失したりすることを示すものもあり、大麻使用とうつ病が共通のリスク要因を共有している可能性や、定期的な大麻使用者であっても、ほとんどの人はうつ病を発症しないという事実が指摘されています。

医療用大麻とうつ病

臨床的な証拠にはまだまだ限界があることが現状です。

まず、うつ病を主要評価項目としたランダム化比較試験(RCT)は存在しません。そのため、現在のエビデンスは主に観察研究やケースレポートに基づいています。Walshら(2017年)の系統的レビューやKosibaら(2017年)のメタアナリシスでは、35%以上の患者がうつ病の自己治療のために大麻を使用していると報告されています。

ランダム化比較試験(RCT)とは:
研究の対象者を2つ以上のグループにランダムに分け(ランダム化)、治療法などの効果を検証することです。ランダム化により検証したい方法以外の要因がバランスよく分かれるため、公平に比較することができます。ランダム化比較試験では、患者も医師も振り分けられるグループを選ぶことはできません。無作為化比較試験ともいいます。

出典 – 国立がん研究センター

自然環境下での研究、例えばBahorikら(2021年)の研究では、医療用大麻を使用した外来患者のうつ病の重症度が有意に減少したと報告されていますが、これは自然主義的研究であるため、バイアスが存在する可能性があります。

系統的レビューの結論は様々です。
Blackら(2019年)は、大麻のうつ病に対する効果は有意ではない(効果があるとは言えない)とされています。Densonら(2011年)の研究では、時折または日常的な使用がうつ病の症状を軽減する可能性を示唆している一方で、Babsonら(2017年)の研究では、大量使用がうつ病リスクを増加させる可能性を指摘しています。

リスクと注意点として、大量の大麻使用はうつ病の症状を悪化させる可能性があり、特に若年者、不安障害や精神病性障害を持つ人においては、高THC製剤の使用に注意が必要です(Cuttlerら、2016年)。Feingoldら(2017年)の研究では、社会人口学的および臨床的要因がこれらの関連性に影響を与えている可能性が示唆されています。

社会人口学的要因と、臨床的要因とは?
「社会人口学的要因」は、年齢、性別、社会経済的地位、人種、居住環境など、個人を取り巻く社会的背景です。「臨床的要因」は、精神疾患の既往歴、物質使用、身体的健康状態、ストレスなど、個人の内面や健康状態です。これらは複合的に影響し、問題理解には両視点からの検討が必要ということになります。

うつ病と大麻の最新研究

うつ病治療における医療用大麻の有効性

(原題)Effectiveness of Medical Cannabis for the Treatment of Depression: A Naturalistic Outpatient Study

概要

遠隔医療で医療大麻治療を受けた59人の外来患者を対象に18週間の縦断研究が実施されました。その結果、患者の自己申告によるうつ病の重症度は有意に減少し、半数で50%以上の改善が認められました。医療大麻は忍容性が高く、脱落率は抗うつ薬の臨床試験と同程度でした。

結論

結論として、患者はうつ病の重症度の臨床的に有意な減少を報告しており、MDDに対する医療大麻の有効性についてさらなる研究が必要ですが、大麻使用障害や集中力低下などの副作用のリスクも考慮する必要があります。

大麻規制の厳しい日本でCBNはどのように利用されているか – その目的、医療効果、有害事象、依存性

(原題)How Cannabinol Is Utilized in Japan, a Country with Strict Cannabis Regulations—Its Purposes, Medical Effects, Adverse Events, and Dependence

概要

日本臨床カンナビノイド学会らの研究チームは、国内のカンナビノール(CBN)製品ユーザーを対象に、初のオンライン調査を実施し、その結果を”Integrative Medicine Reports”誌に発表しました。調査の結果、CBN製品は主にヘルスケア目的(不眠、不安、うつなど)で使用されており、不眠、不安、慢性痛に対する自覚症状の改善が報告されました。

結論

ユーザーの多くが身体的・精神的QOLの改善を報告し、有害事象の発生率は低いことが示されました。この結果から、国内で流通するCBN製品は主にヘルスケア目的で使用され、公衆衛生上の重大な問題はないと考えられます。

大麻使用と精神病性障害リスクとの年齢依存的関連性

(原題)Age-dependent association of cannabis use with risk of psychotic disorder

概要

疫学研究では若年者の大麻使用と精神病性障害との関連が示唆されていますが、現代の高力価大麻に関するエビデンスは限られています。本研究では、カナダの人口ベースの調査データと医療記録をリンクさせ、12〜24歳の若年者を対象に、大麻使用と精神病性障害の発症リスクの関連を年齢別に検討しました。

結論

その結果、大麻使用は青年期(12〜19歳)において精神病性障害のリスクと強く関連していましたが(ハザード比11.2)、若年成人期(20〜33歳)では有意な関連は見られませんでした(ハザード比1.3)。この結果は、青年期が神経発達上の脆弱な時期であり、大麻使用の影響を受けやすいことを示唆してしています。また近年の大麻の強さの上昇が関連の強さに関与している可能性があります。

ハザード比(Hazard Ratio, HR)とは:

生存時間分析(ここでは、精神病性障害を発症するまでの時間)で用いられる統計指標です。今回のケースについて簡単に言うと、2つのグループ間で、あるイベント(この場合は精神病性障害の発症)が起こる「速さ」の比を表します。

例えば、ハザード比 11.2 (青年期)とは、大麻を使用している青年は、大麻を使用していない青年に比べて、精神病性障害を発症する「速さ」が11.2倍であることを意味します。つまり、発症リスクが非常に高いことを示しています。

まとめ

大麻の使用はうつ病のリスクをわずかに増加させる可能性があるが、証拠は混在しており、因果関係は明確ではない。特に重度の使用ではリスクが高まる可能性があるが、双方向性の関連も考慮する必要があります。

一方、大麻製剤がうつ病を改善する証拠は弱く、現在のところ治療としての推奨はあきらかに時期尚早です。さらなる研究、特にRCTが必要であり、患者の個別の状況やリスクを考慮した慎重なアプローチが求められます。

参考文献

※本記事は、日本国内ならびに国外での違法行為を助長する意図はありません。
この記事の内容は、あくまで読者の皆様のリサーチや学習の一環として提供しています。
法律に関する最新情報は各国の公式サイトをご確認ください。

編集者

CANNABIS INSIGHT代表/編集長
世界の大麻・CBDのビジネスや経済情報を調べています。

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