THC・CBDの標的「CB1・CB2受容体」について|大麻・CBDの基礎知識

今回はTHCとCBDが整理的な効果を発揮するときのターゲットになっているといわれているCB1, CB2について調査した結果をまとめてみました。込み入った話も出てきますが、押さえておくといろいろな疑問が湧いてくるようなトピックです。興味のある方はぜひご覧ください。

目次

CB1受容体とは

CB1受容体について

画像は「Crystal Structure of the Human Cannabinoid Receptor CB1(Tian Hua et al., 2017)」より

生体内での機能

CB1受容体は、主にニューロンに存在するGタンパク質共役型受容体(GPCR)で、神経伝達の調節を担当しています。この受容体は、記憶や学習などの神経活動に影響を与え、中毒障害、運動機能障害、統合失調症、双極性障害、うつ病、不安障害といった神経精神疾患にも関わっているとされます。

脳以外でも、肝臓、脂肪組織、血管、心臓、生殖組織、骨など様々な組織に存在し、それぞれの生理機能を調節しています。

GPCRとは: 7回膜貫通型の構造を持つ受容体タンパク質。ヒトゲノム中に約800種類存在。細胞膜上に広く分布。GPCRは生命科学や医学研究において非常に重要な分子群であり、その機能解明と創薬への応用に向けた研究が盛んに行われています。

構造

CB1受容体は、体のいろいろな細胞の表面だけでなく、細胞の中の小さな構造(小器官)にも存在しています。

CB1受容体が信号を送るときは、Gi/oと呼ばれる特別なタンパク質と一緒に働くと言われており、細胞内では次のような変化(一部)が起こります:

  • アデニリルシクラーゼという酵素のはたらきが抑えられ、細胞のエネルギー利用が調整されます。

  • MAPK(マップキナーゼ)が活性化され、細胞の成長や応答をコントロールします。

  • 一酸化窒素の信号が変わり、血管や神経に影響を与えます。

また、CB1受容体が細胞の中でうまくはたらけるように、β-アレスチンやAP-3、GASP1といったタンパク質が関わって、CB1受容体がどこに行くか、どれくらい安定しているかを調整しています。

THC, CBDとの関係

CB1受容体は、THC(テトラヒドロカンナビノール)の主要な標的であり、THCはCB1受容体に結合してその活性を引き出します。この作用により、脳や他の組織で様々な生理的影響が生じます。一方で、CBD(カンナビジオール)はCB1受容体に対して直接的なアゴニスト(活性化分子)として働かないものの、間接的な作用を通じてCB1受容体の活性に影響を与えると考えられています。

CB2受容体とは

画像は「Crystal Structure of the Human Cannabinoid Receptor CB2(Xiaoting Li et al., 2020)」より

生体内での機能

CB2受容体は、主に免疫系の調整に関与しているカンナビノイド受容体の一種です。炎症が発生した際に免疫細胞や脾臓などで特異的に発現し、ミクログリアなど中枢神経系の免疫細胞にも影響を与えます。

神経炎症や神経障害性疼痛、さらにはアルツハイマー病や多発性硬化症といった神経変性疾患の発症においても重要な役割を担っており、治療標的としての期待が高まっています。CB2受容体は精神活性作用を引き起こさないため、神経保護を目的とする治療法の開発が進行中です。

構造

CB2受容体は、7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体(GPCR)であり、同じカンナビノイド受容体であるCB1受容体と44%の相同性を持っています。CB1が主に脳に存在するのに対し、CB2は免疫細胞や脾臓、骨細胞、破骨細胞といった末梢の組織に分布しています。脳内では通常は発現量が少ないものの、炎症や損傷の際にはミクログリアで発現が誘導され、炎症反応の調節に寄与します。

THC、CBDとの関係

CB2受容体は、カンナビノイド化合物であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)やCBD(カンナビジオール)とも関係がありますが、THCの精神作用は主にCB1受容体の刺激によるもので、CB2受容体はこれに関与しません。CBDはCB2受容体を介した抗炎症作用を示すことがあり、神経保護効果が期待されています。特に、CB2受容体を選択的に活性化するアゴニストは、炎症反応の抑制や正常な免疫機能の回復を促進し、慢性疼痛治療への応用が模索されています。

CB1、CB2受容体の生体内リガンドについて

ここまで、CB1、CB2受容体について説明してきましたが、THCやCBDはあくまで外部の物質にすぎません。生体内にもともとある物質が、両方の受容体に働いています。

リガンドとは: タンパク質などの受容体(レセプター)に特異的に結合する物質のことです。生体内では、ホルモンや神経伝達物質などが代表的なリガンドとして機能します。鍵と鍵穴の関係のように、特定の受容体に結合することで生理作用を引き起こします。

CB1、CB2受容体の主要な生体内リガンド:

2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)

  • CB1とCB2の両方の受容体に対して完全アゴニスト(強い活性化作用を持つ)

  • 生体内で最も豊富に存在するエンドカンナビノイド

  • 神経伝達の調節に重要な役割

アナンダミド

  • CB1受容体に対して:部分アゴニスト(中程度の活性化作用)

  • CB2受容体に対して:弱い部分アゴニスト

  • 気分や痛みの調節などに関与

これらの物質は「エンドカンナビノイド」と呼ばれ、神経伝達・痛みの感覚・情動・記憶などの重要な生理機能の調節に関与しています

これらの生体内リガンドの働きを理解することは、様々な疾患の治療法開発において重要な意味を持ちます。

まとめ

エンドカンナビノイド、エンドカンナビノイドシステムといった言葉は有名ですが、THCやCBDがどのように働くかを理解していくには、細かくその要素を見ていく必要があります。今回の記事が、さらなる学習のきっかけになれば幸いです。

引用文献

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編集者

CANNABIS INSIGHT代表/編集長
世界の大麻・CBDのビジネスや経済情報を調べています。

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