世界保健機関(WHO)は、長期の大麻使用と激しい嘔吐・吐き気を繰り返す症状の関連性を認め、該当疾患を正式に国際疾病分類(ICD)に追加した。これにより、これまで誤診されがちだった「大麻使用者に起きる原因不明の嘔吐症」が、医療現場で明確に診断・追跡されるようになる。
この症状はCannabinoid hyperemesis syndrome(CHS)として知られ、慢性的に大麻を使用してきた人々の間で報告されてきた。典型的には吐き気、激しい嘔吐、腹痛、食欲低下などを繰り返し、しばしば脱水や体重減少を伴う。さらに、場合によっては電解質異常、腎機能障害など重篤な健康被害につながる可能性も指摘されている。
CHSの厄介な点のひとつは、その診断の難しさにある。これまでは食中毒や胃腸炎と類似した症状とされ、大麻使用との因果関係が見逃されるケースが少なくなかった。だが今回のICD認定によって、医師は「大麻使用歴 + 繰り返す激しい嘔吐」の組み合わせでCHSを正式に疑い、診断できるようになる。これを受け、米国などでは救急外来へのCHS関連の受診が増加傾向にあるとの報告もある。
CHSの対処法としては、最も効果的なのは「大麻の使用を止めること」だ。症状の発作を抑える一般的な制吐薬はほとんど効かず、温かいシャワーや熱い風呂に入ることで一時的な緩和を得る患者も多いという。だが根本的な治療は“断絶”しかなく、継続使用は再発のリスクを伴うとされる。
一方で、近年のTHC含有量の高い製品の普及、頻繁・長期の使用傾向が、CHSの増加に拍車をかけているとの指摘もある。米国では合法化の広がりとともに使用人口が拡大しており、その裏でCHSのような「大麻の負の側面」が見過ごされてきた可能性が浮上している。医療専門家は、今回のWHOの認定を機に、利用者と医療現場の両者で「大麻は万能ではない」「依存・過剰使用にはリスクがある」という認識を改めるべきだと警鐘を鳴らしている。
国内外で大麻・カンナビノイド関連事業に関わるプレーヤーにとっても、この認定は重要な転換点となる。特に、原料供給、流通、消費者教育、規制対応を想定している企業や団体は、CHSのような健康リスクを無視できない。法改正や市場拡大の議論と並行して、安全性・副作用への配慮をビジネス設計に組み込む必要がある。
今回のWHOによる正式認定は、合法化だけでは語れない「大麻使用の現実とリスク」を改めて社会に示す重大なシグナルだ。CHSの認知が広がることで、利用者・事業者ともに「向き合うべき課題」が浮き彫りとなったと言えるだろう。
参考記事:World Health Organization officially recognizes weed-linked vomiting disorder(HighTimes)



