米ワイオミング州の連邦検事・Darin Smith 氏が、連邦政府(Donald Trump 政権)が大麻使用を「公共の安全上の危険(public safety hazard)」と見なしていると明言し、国有地や国立公園など連邦管轄地での大麻所持・使用に対して「厳正に起訴する」と発表した。州法で成人向け大麻が合法化されている地域であっても、連邦法下および連邦土地では大麻所持が犯罪となる姿勢を鮮明にした形だ。
Smith氏によれば、司法省は今年9月29日付で、前政権下で運用されていた「少量所持を起訴優先としない内部指針」を撤回したという。これを受け、国立公園で観光客が個人的に使用するケースなど、従来は軽微とされてきた行為であっても法執行の対象となる可能性が高まる。氏は「大麻所持は州法がどうであれ、連邦法下では依然として犯罪だ」「違反者にはあらゆる起訴手段を用いる」と述べ、取り締まり強化を明言した。
こうした方針に対し、議会および業界から強い批判も出ている。下院議員 Dina Titus 氏(D-NV)は、「少量の大麻所持を公共安全の脅威だとするのは時代遅れの法律で市民を起訴する口実にすぎない」と批判。合法化された産業を認め、連邦法上の大麻分類(スケジューリング)を見直すべきだと述べた。また、Marijuana Policy ProjectやNORML関係者は、「国立公園で友人と吸っている一般市民が対象となるのは税金と司法リソースの無駄だ」と反発している。
一方で、今回の起訴強化の動きは、連邦政府が大麻規制物質法(CSA)における分類を変更し、スケジュールIIIへ移行させる可能性を検討している動きと同時進行している。規制強化と制度緩和が交錯する過渡期であり、政策方向が揺れる中で法執行と制度改正が並行する形となっている。
今回の動きは、大麻合法州をまたぐ物流、国立公園を含む観光市場、越境サプライチェーンなど、米国市場を視野に入れた事業者にとって構造的リスクを示している。州法だけを根拠にした市場参入では不十分であり、連邦法・連邦管轄地におけるリスク設計が欠かせない。制度改革の可能性も残されているものの、短期的には摘発リスク、中長期的には制度変化の双方を織り込む必要がある。
最終的に、今回の方針転換は「大麻合法化が進む中でも、連邦レベルでは規制強化が再始動している」という重要なシグナルだ。米市場に関わる関係者は、州法と連邦法のギャップを前提にした事業設計・法務体制・コンプライアンス整備を求められるだろう。



