体外受精(IVF)の現場から集めた検体を解析した研究で、大麻の主要成分THC(テトラヒドロカンナビノール)が女性の卵胞液に到達し、卵子の成熟過程や染色体の分配に影響を及ぼす可能性が示された。論文は9日、英科学誌『Nature Communications』に掲載された。研究チームは、THCやその代謝物が検出された患者では卵子の成熟率が上がる一方、染色体数が正常な“ユープロイド胚”の割合が有意に低いと報告している。
カナダ・トロントのCReATe Fertility Centreで実施された症例対照研究では、1,059件の卵胞液サンプルを質量分析し、6%(62件)でTHC代謝物を検出。陽性者の73%は自己申告で大麻使用を申告していなかったという。研究チームは、THC濃度が高いほど卵子の成熟率と正の相関を示した一方、胚の染色体分配エラーや紡錘体(染色体を引き分ける装置)の異常が増えたとした。
具体的には、THC陽性群のユープロイド胚割合は60%と、陰性群の67%を下回った。培養下の実験でも異常な紡錘体形態が増え、染色体の不均等分配が起こりやすい兆候が確認されたとしている。
一方で、対象がIVF患者に限られることや、摂取量・摂取経路などの詳細が十分に把握できていない点から、一般集団にそのまま当てはめるのは時期尚早との見方もある。臨床医らは「妊娠を望む時期や妊娠・授乳中は使用を控えるのが安全」としつつ、因果関係の確定にはさらなる研究が必要だと指摘している。
研究チームは「THCが女性の生殖細胞(卵母細胞)に与える影響を、臨床データと実験の両面から示した初の包括的報告だ」と述べ、女性の生殖健康に関するカウンセリングや注意喚起につながる可能性を示した。
参考記事:Marijuana may cause chromosomal defects in human egg cells, study finds(CNN)