こんにちは、大麻・CBDのビジネス、経済メディア「CANNABIS INSIGHT」です。
最近、サステナビリティの観点から注目されているヘンプ。環境に良い素材として、多くの製品で活用が進んでいますが、実際にどれほど環境に優しいのでしょうか?
この記事では、ヘンプの環境負荷の低さ、広範な用途、そして食品への活用可能性について調査しました。
ヘンプとは?
ヘンプは、アサ(麻)の仲間である一年草の植物です。成長が速く、農薬や水をほとんど必要としないため、環境負荷が少ない植物として知られています。
ヘンプの環境負荷の低さ
栽培時の環境負荷が低い
ヘンプは、繊維作物の代表であるコットンと比べて、成長が速く、必要な農薬や水が少なくて済みます。例えば、繊維用のヘンプは60~90日、穀物用は90~120日で成熟しますが、コットンは150~180日かかります。さらに、コットンは世界の耕作地の2.4%を占めながら、農薬使用量の11%を消費しています。一方、ヘンプはコットンと同じ量の繊維を生産するのに、必要な土地面積は3分の1、水量は2.5分の1で済むとされています。
木材と比べても多くのバイオマスを生産し、比較して2倍の利用可能な繊維を生産します。
ヘンプは害虫や病気に強く、農薬の使用がほとんど必要ないため、土壌や水質への汚染リスクが低減されます。特に、’Henola’という品種は成長が早く、種子生産にも適しているため、栽培に向いていると報告されています。
一方で、土壌から重金属を吸収してしまうという記述もあります。これは土壌汚染の深刻な地域で栽培された場合、ヘンプ自体が重金属を含んでしまう可能性を示唆しています。
繊維用のヘンプは、背が高い品種が適しています。これらの品種は「デュアルパーパス」と呼ばれることもあり、繊維の量が多く、穀物の収量もある程度得られるものが多いです。 穀物用のヘンプは、比較的背が低く、繊維の量が少ないため、主に穀物生産に向いています。
植物全体を無駄なく活用
ヘンプは葉、茎、根、種子など、全ての部位を活用できます。例えば、茎からは繊維、葉や根からは医薬品、種子からは油が抽出され、残りの部分もタンパク質豊富な素材として利用されます。また、茎から取れる麻幹は、建材としてヘンプクリートに使用されます。
この広範な用途は廃棄物が少なくなる可能性を秘めており、うまくヘンプ全体を利用する生産体制を整えることで、より環境に優しい利用ができると言えるでしょう。
二酸化炭素を吸収する
成長中のヘンプは、空気中の二酸化炭素を吸収します。特にヘンプクリートは製造後も二酸化炭素を吸収し続けるため、「カーボンネガティブ」な素材として注目されています。
これはヘンプクリートの主成分である石灰が、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムを生成する「炭酸化」によって強度を増していくとされるためです。この反応は100年以上続くとされます。
ヘンプクリートについての記事を以前作成しております。興味のある方はぜひ読んでみてください。

ヘンプの広範な用途
-
繊維・織物: 古くは船の帆やロープに使われ、現代では衣料品やバッグに応用されています。
-
ヘンプクリート: 茎から取れる麻幹を石灰と混ぜて作られるバイオコンクリートは、軽量で断熱性や防火性に優れ、環境にも優しい建材です。
-
バイオ燃料: ヘンプの種子や茎はバイオエタノールやバイオディーゼルの原料となり、再生可能エネルギーとして期待されています。
-
バイオプラスチック: ヘンプの繊維はバイオプラスチックの材料としても使用され、石油由来のプラスチックの代替として注目されています。
-
食品: ヘンプシードは栄養価が高く、必須脂肪酸やタンパク質、ビタミン、ミネラルを豊富に含んでおり、シードオイルやプロテインパウダー、スナックバーなどに利用されています。
食品におけるヘンプの可能性
ヘンプシードのタンパク質は、大豆に匹敵する栄養価を持ち、食品加工での応用が進んでいます。植物性ミルクや乳化剤、グルテンフリー食品の強化、植物性肉の製造など、幅広く研究が行われています。特にヘンプタンパク質はシステインを多く含み、食品加工において有用な特性を持つことが示唆されています。
一方で、ヘンプタンパク質は大豆タンパク質に比べて溶解性が低く、加工に高い温度が必要となるという課題も指摘されています。これは、ヘンプタンパク質を食品加工に利用する際に、新たな技術や工夫が必要となる可能性を示唆しています。コストとの兼ね合いも考える時、どのようにヘンプを利用していくのかは課題の残るところと言えるでしょう。
まとめ
ヘンプは、環境負荷が低く、多様な用途に活用できることから、持続可能な素材としての可能性を秘めています。農薬や水の使用量の少なさ、二酸化炭素の吸収能力、そして植物全体を無駄なく利用できる点から、ヘンプは確かに環境に優しい素材と言えるでしょう。
特に繊維植物としては、水量や栽培面積の面で優秀です。一方でコットンの肌触りの良さや、ポリエステルのコストの低さに勝つ必要がどうしても出てくるため、技術によってそのあたりを改善する必要があると思われます。
参考文献
以下の3つのレビュー記事を参照し、また2022年のDepartment of Cannabis Controlのレポートも参考にしました。文末にリファレンスとして置いていますので、さらに読み込みたい方は参照してください:
-
Ahmed, A. T., Islam, M. Z., Mahmud, M. S., Sarker, M. E., & Islam, M. R. (2022). Hemp as a potential raw material toward a sustainable world: A Review. Heliyon, 8(1).
-
Crini, G., Lichtfouse, E., Chanet, G., & Morin-Crini, N. (2020). Applications of hemp in textiles, paper industry, insulation and building materials, horticulture, animal nutrition, food and beverages, nutraceuticals, cosmetics and hygiene, medicine, agrochemistry, energy production and environment: a review. Environmental Chemistry Letters, 1-26.
-
The hemp report.