サイケデリック(Psychedelic)とは、脳内のセロトニンの働きを変化させ、気分や感覚、自己認識に影響を与える薬物の総称です。これらが精神疾患治療として注目を集めています。そのことから現在、多くの臨床試験が行われています。これらの試験は、従来の治療法に代わる新しい選択肢を提供する可能性があります。
サイケデリック(Psychedelic)の定義
サイケデリックは、脳内のセロトニンの働きに影響を与える薬物で、気分や知覚、自己認識に変化をもたらします。これにより、視覚や感覚が鮮明になったり、自己や他者とのつながりが深まることがあります。それによって精神的な変化を引き起こす可能性があります。
摂取時の効果は、摂取量や個人の性格、環境などによって異なります。また、汚染物質や他の薬物との併用によって予期せぬ効果が現れることもあります。
古代から儀式や宗教的な目的で使用され、現在では治療法としても研究されています。最近では、LSDやシロシビンを少量摂取する「マイクロドージング」が注目されており、気分改善や生産性向上を目的としていますが、安全性や効果はまだ不明です。
具体的な薬物
主なサイケデリックには、以下のようなものがあります
-
シロシビン: マジックマッシュルームに含まれる化合物
-
LSD: 合成物質で、無色無臭
-
DMT: アマゾンの植物に含まれる化合物
-
メスカリン: ペヨーテサボテンに含まれる成分
-
NBOMes: 合成化合物で、LSDより強力
精神的な病・障害の治療法として注目
サイケデリックは、近年医療分野での関心が高まっています。特に精神的な障害の治療における効果が期待され、多くの研究が行われています。
-
シロシビンやLSD、DMTなどは、うつ病、不安、PTSD、中毒などの治療に有望とされ、研究が進んでいます。
-
ケタミンは、重度のうつ病治療薬として米国食品医薬品局(FDA)に承認されています。
-
シロシビンも、うつ病治療薬としてFDAから治療薬に指定されています。
これらの研究はまだ初期段階ですが、将来的に精神障害治療において重要な役割を果たす可能性があります。
臨床試験の増加
2007年から2020年の臨床試験を分析した結果、サイケデリックに関する試験は年々増加しています。例えば、調査によると2017年以降に開始された研究が全体の77.1%を占めており、この分野への注目が集まっていることがわかります。
研究の課題
しかし、サイケデリックス研究にはいくつかの課題も残されています。
多くのサイケデリックスは米国でスケジュールI薬物に分類され、厳しい規制があり、資金調達も難しい状況です。社会的偏見も、研究の進展を阻む要因となっています。
大麻における「スケジュール」:
米国では、1970年に制定された規制物質法(Controlled Substances Act)に基づき、薬物や化学物質は乱用や医療における使用の可能性に基づいて、スケジュールIからスケジュールVまでの5つのカテゴリーに分類されます。スケジュール分類はあくまで米国の法律に基づくものであり、他の国では異なる分類がされている場合があります。
具体的な事例:PTSD
例えばMDMAは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療に有効である可能性があります。この治療法は、FDAから画期的な治療法として指定されており、既存の治療法よりも高い効果が期待されています。
臨床試験では、MDMAを使用した治療を受けた患者の83%が、治療後の追跡調査で、PTSDの診断基準を満たさなくなったことが確認されました。これは、MDMAによる治療が非常に有効である可能性を示しています。
臨床試験の詳細
-
2011年に発表された最初の対照臨床試験では、治療が難しい慢性PTSD患者に対して、MDMAを使った治療とプラセボを比較しました。
-
結果として、MDMAを使用した治療群の方がプラセボ群よりもPTSD症状の大幅な改善が見られました。
現在、多くの研究において安全性や有効性の確認が進められています。今後の研究の進展により、サイケデリックが、従来の治療法では効果が得られなかった患者に新たな治療の選択肢を提供することが期待されています。
サイケデリックの意味・語源・イメージなど
「サイケデリック」という言葉は、1956年に「意識の拡大や感覚の高まりによって、心を拡張させるもの」という意味で使われ始めました。この言葉は、イギリス生まれの精神科医によって提案され、作家のオルダス・ハクスリーに宛てた手紙の中で初めて登場したとされます。
語源はギリシャ語の「心」を意味するpsyche(プシュケー)と、「明らかにする」「見えるようにする」という意味のdeloun(デローン)に由来します。
1965年頃からは、サイケデリックな薬物が引き起こす効果や感覚を思い起こさせるもの全般を指して使われるようになり、名詞として「サイケデリック薬物」という意味でも1956年以降使われています。
また、そのイメージはファッションやアートの世界にも転用されており、例えば生成AIで「サイケデリック」と指示すると以下のような不思議なイメージが出力されます。

参考元:Etymology
ビジネスについて
2023年9月1日、大塚製薬は、精神神経疾患領域の強化を目的として、マインドセット社(Mindset Pharma, Inc.)の買収を発表しました。
今回の買収は、大塚製薬が精神神経疾患領域にて、新たな治療法の開発や研究を加速させることを目的としています。買収完了後、大塚製薬はマインドセット社の持つ技術やノウハウを活用し、新薬開発を推進していくものとみられます。
以下の記事では、買収の詳細について詳しく説明しています。ご興味のある方はぜひご覧下さい。
▶︎ 大塚製薬が幻覚剤企業を買収|サイケデリックとM&Aについて解説
まとめ
サイケデリックは、精神障害の治療において期待を集める分野であり、多くの研究が進行中です。特に、MDMAがPTSD治療に有効である可能性が示されており、FDAもその治療法を画期的なものとして認めています。現在は研究初期のものも多いとされますが、医療現場における新たな治療の選択肢として確立される可能性があります。今後の研究結果が精神疾患治療の分野における革新をもたらすかもしれません。
参考文献
Psychedelic and Dissociative Drugs