みなさん、こんにちは。
CANNABIS INSIGHT(カンナビスインサイト)のたかおみです。
今回は大麻業界のあらゆる課題に向き合っているスタートアップ企業をご紹介します。日本では大麻取締法をはじめとした法律の影響で、大麻に関わる企業の多くが「CBD商品の販売」を主な事業としています。
しかし、世界を見渡すと大麻が合法化されている国では農業(栽培)、IT、大麻製品の小売など、大麻に関する事業は様々で、企業形態もスタートアップのように資金調達をし、急成長を狙う企業もあれば、すでに大麻領域で上場している企業やスモールビジネスをしている企業など様々です。
今回は「大麻×スタートアップ」をテーマに、世界の大麻企業やプロダクトを紹介し、世界のムーブメントや事例をお届けできればと思っています。
Jane Technologies, Inc|正確な在庫管理が売りの大麻特化のEコマースサービス

Janeは大麻専門のEコマースをWeb・iOSアプリ上で提供しています。似たようなサービスでいうとWeedmapsやLeaflyといったものが挙げられます。
競合犇く大麻専門のEコマース事業である「Jane」は「Weedmaps」や「Leafly」とどのような点が異なるのでしょうか。
それは主に、正確な在庫管理と各店舗のDX支援に焦点を当てている点に加え、シンプルで直感的なデザインを実装してることです。Jane は、大麻業界のAmazonではなく、eBay や Shopify に当たるポジショニングをしており、ブランドや小売業者が大麻取引で主体的に消費者と関係構築ができるサービス展開を目指しています。
Jane Technologies, IncはこれまでにシリーズCのラウンドまで資金調達を進めてきました。2021年8月にシリーズCで1億ドルの資金調達を実施し、累計1億3000万ドルの調達に成功しています。1億ドルは120億円(2023/01/28現在)ほどの金額なので、メガベンチャーといっても過言ではない企業規模となっています。
Janeのiosアプリは昨年2022年にリリースされたばかりで、今まで以上にディスペンサリーと顧客のユーザー体験を向上させることを目的に開発されています。2023年はJaneにとってどのような年になるのか、新しい大麻業界のShopifyになるかに注目です。
情報源:Jane 公式サイト
Eaze Technologies, Inc|米国最大級の大麻配達サービス

Eaze Technologies, Incは米国最大級の大麻配達サービスです。カリフォルニア州とミシガン州を中心に大麻製品を合法的に配達しており、これまでに100を超える登録ブランドと200万人を超えるユーザー登録数、800万件を超える配達件数を記録している巨大サービスになります。
「大麻版Uber」はまさにEazeのサービスを理解するのにうってつけの言葉だと思います。
Eaze Technologies, Incは大麻の配達事業を基盤に、様々な社会的活動も行っています。公式サイトを見ると、ビジネスアクセラプログラムへの助成金提供、医療用大麻の無料配布、犯罪歴抹消支援など、大麻に関する社会課題(人種問題、薬物戦争、貧困問題)に売上の一部を活動資金として寄付しています。
これまでに2億5000万ドルの資金調達をしており、Jane同様にメガベンチャー級の規模感の会社となっています。確かにスタートアップのような急成長段階ではないかもしれませんが、大麻業界でここまでの規模感で資金調達を達成している企業は数少ないです。Eaze Technologies, Incが設立されたのが2014年なので約8年ほどでここまでの成長率を見せています。
情報源:eaze 公式サイト
PAX Labs|喫煙に革命を起こしたスタートアップ

ベイプ業界で有名なスタートアップはやはりPAX Labsでしょう。2007年創業の同社は、過去に4回の資金調達を実施しておりその累計額はおよそ現在の価格で730億円ほどです。Pax Labsは、ジェームズ・モンシーズ氏とアダム・ボーエン氏という二人のスタンフォード大学の学生によって設立されています。二人は現在は経営に関与していません。
きっかけは創業者ふたりが喫煙におけるイノベーションの余地の大きさに気づいたところからはじまりました。いわゆる電子タバコデバイスであり、現在ではかなりの市民権を得ましたが、当時は電子タバコのための器具は存在していませんでした。また、当時はアメリカの州でも嗜好用大麻は合法化されていなかったため、マリファナに関する文言は触れられていなかったそうです。
Pax Labsのベポライザーは、その革新性とデザイン性から高いブランド価値を確立しています。ビジネスインサイダーの記事では「ベポライザーの iPhone」とネーミングされていることも書かれており、小型で携帯可能であり、目立たないため利便性が高いことが評価されています。つまり、喫煙のイメージを塗り替え、スマートな印象を与える商品となりました。
いまでは日本でもさまざまな電子喫煙デバイスがありますが、Paxはそのトップランナーとして今でも第一線で活躍しています。
情報源:
Flowhub|ディスペンサリーを成長させる決済システム

大麻産業では、クレジットカード決済が基本的に利用できません。というのも、例えばアメリカではディスペンサリーは州ごとに合法で運営されている一方で、クレジットカードなどの決済処理は連邦レベルのルールに従う必要があるためです。VISAなどの大手クレジットカード会社は、連邦法で今も違法とされている大麻産業に関与することでリスクを抱えることを避けています。
そこでアメリカには大麻小売業独自に決済手段を提供する会社がいくつもあります。
Flowhubはアメリカに拠点を置く、大麻業界向けのテクノロジー企業です。2016年に決済ソリューションの提供を始めて以来、モバイルスキャナーやオールインワンの小売管理システムなど、サービスの幅を広げてきました。現在では、同社のPOSシステムと決済機能は、アメリカ国内の合法市場で広く活用されており、高い信頼を得ているとされています。
Flowhubは資金調達で総額 4,580万ドル(64億円程度)の資金をこれまでに調達してきました。いまでは1,000以上のディスペンサリーから使われている信頼性の高いサービスです。
参考記事:Flowhub 公式HP
dutchie|

dutchieは、大麻(カンナビス)販売店向けのテクノロジー企業です。POSシステム、Eコマース、決済、マーケティング、在庫管理、コンプライアンス対応ツールなどを統合したプラットフォームを提供し、店舗運営の効率化と成長を支援します。安全で簡単な大麻へのアクセス実現を目指しています。
資金調達においてはSnoop DoggのCasa Verde Capitalといった著名な投資家から多額の支援を受けています。シリーズCラウンドで2億ドル(評価額17億ドル)を調達した後、さらに3億5000万ドルを調達し、企業評価額は37億5000万ドルに達するなど、市場からの高い期待がうかがえます。
dutchieのユニークさは、まず大麻販売店が必要とする多様な機能を一つのプラットフォームで提供する「オールインワン」のアプローチにあります。POSシステムからEコマース、決済、マーケティング、在庫管理、そして複雑な規制に対応するコンプライアンスツールまでを統合し、店舗運営を一元化・効率化します。特に、大麻業界特有の規制遵守を支援する機能は重要です。
また、2017年の創業から急速に成長し、戦略的な企業買収(Greenbits、LeafLogixなど)を通じてプラットフォームを強化してきました。AIを活用したパーソナライズ機能やキャッシュレス決済システム、独自のPOSハードウェア開発など、技術革新にも積極的です。
情報源:公式サイト
The Bettering Company|新しいエディブルの選択肢

The Bettering Companyは、エディブル製品を生産するスタートアップ企業です。
2023年には670万ドルの資金調達を行っています。非常に差別化の難しい分野ですが、収益が出ていない段階で合計1,100万ドルの調達を完了しており、非常に勢いのある可能性の大きい会社です。
以下に「business wire」のなかで語られたCEOの発言を引用します。
合法化から10年が経過したにもかかわらず、大麻市場には、単なる大麻の配達手段ではなく、素晴らしい体験を求める消費者のニーズに応える、真に贅沢な選択肢が欠けています」と、
business wireより
ベタリング・カンパニーのCEO兼共同創業者であるマーク・コッツィ氏は述べています。「健康志向で風味を愛する消費者のニーズに真に応える大麻ブランドは存在しません。そこで私たちは、それを実現する会社を設立することにしました。私たちの使命は、これまでも、そしてこれからも、あらゆる段階においてプロセスの改善に努めていくことです。世界中の人々がその変化を体験する日が待ち遠しいです。」
情報源:公式HP
Cann|大麻飲料スタートアップ

最後にご紹介するのは大麻飲料サービスを展開しているCannになります。2018年にカリフォルニア州で発売され、その後、カリフォルニア州、ネバダ州、イリノイ州、マサチューセッツ州、ロードアイランド州、アリゾナ州、さらにカナダのオンタリオ州とブリティッシュ・コロンビア州と販売エリアを拡大し続け、およそ1000万缶の製造を達成しています。
Cann社は2020年にシードラウンドで500万ドルの資金調達を達成後、2022年にシリーズAで2700万ドルの資金調達を実施しています。後ほどでもまとめますが、2022年の大麻市場の資金調達件数はかなり少なく、市況としてはとても悪い状況でした。
しかし、Cann社は順調に2700万ドルの資金調達をしたことに加え、先ほどご紹介した2社と比較して創業初期で勢いのある企業になります。
大麻×D2C事業は競合が多く、製品もコモディティ化するケースが多いことから想像以上に成功難易度が高い市場であるにも関わらず、着実に事業成長しているのには何か大きな要因があるかもしれないですね。
Cann社はトニックに混ぜたり、大麻カクテルの材料として使用できるTHC入りシロップなど、変わり種の商品も販売しており、かなり幅広い製品を提供しています。シリーズAの資金調達は有名インフルエンサーも巻き込んでおり、今後はどのように認知拡大や事業成長が行われるか注目です。
情報源:Cann 公式サイト
アメリカの大麻スタートアップの資金調達状況
ここまで、海外の大麻スタートアップ企業をまとめてきました。
割と大規模な企業が多く、スタートアップ企業とは若干イメージが違うなと思われた方もいるかもしれません。というのも近年の大麻市場の資金調達件数は下降気味で、あまりうまくいっている企業がありません。確かに、経済市況が悪いというのは大きな要因としてありますが、大麻企業への投資が加熱していた2018年ごろに比べるとかなり落ち着いている印象があります。

この図にあるように2022年は資金調達件数がかなり落ちています。M&Aも似たような傾向があり、大麻市場が成熟しつつ、数年前の大麻市場への投資ブームが落ち着いたことが示されている数値だと思います。数年前から事業を仕込んでいた企業は着々と資金調達を達成している一方で最近勢いでリリースされたサービスや企業はなかなか資金調達ができない現状が今の大麻市場の市況ではないでしょうか。
2023年は大麻スタートアップ企業で賑わす企業が出てくるのか、CANNABIS INSIGHTでもチェックしていきたいと思います。