PsyDAO|サイケデリック研究への資金提供を行うDAO(分散型自律組織)

※日本国内の違法行為を推奨する記事ではありません。あくまで世界で議論されている情報をキャッチアップする目的で当記事は作成されています。

大麻・CBDのビジネス、経済メディア「CANNABIS INSIGHT」のたかおみです。

今回は、PsyDAOというサイケデリック研究に資金を提供することを目的としたDAO(分散型自律組織)を紹介します。


【この記事で知れること】

PsyDAOの概要
DeSciについて
研究活動とCrypto


最近、世界の大麻ニュースをリサーチしていると「サイケデリック」という言葉をよく見かけます。国によっては「サイケデリックの研究を始める」といった前向きなニュースを見かけることもあり、以前から注目されていたサイケデリックがさらに社会実装に向けて舵を切り始めているような気運を感じます。

大麻とも関係が深いことから私も注目している分野になるわけですが、そのサイケデリックとブロックチェーン技術(Web3)を掛け合わせた興味深いプロジェクトがあったので記事化してみました。

目次

PsyDAOとは?

引用:https://psydao.io/

PsyDAOは、DeSci(Decentralized science)のムーブメントの中の一つのプロジェクトで、ブロックチェーンの技術を活用してサイケデリック研究への資金提供とIP(知的財産権)の管理を行うことが主な目的とされています。

2022年4月20日ごろから公式的に活動が開始し、現在(2023年6月)では約1500人のDiscordメンバーと3000人のTwitterフォロワーに加えて、サイケデリック研究の研究者やプロジェクトに関わるメンバーなどのcontributor(貢献者)がいます。

PsyDAOの紹介動画

PsyDAOの方針と目標

What if we collectively owned psychedelics? We want to democratize access.

What if we made psychedelics unmonopolizable? We want to decentralize power.

Instead of the wrong path, we take the path less traveled. From Satoshi Nakamoto all the way back to the first ape to ever pick and eat a psychedelic mushroom, it has made all the difference.

引用:https://psydao.io/

PsyDAOが掲げるマニフェストの一部を引用してきました。

全文を引用するとかなり長くなるので、ざっくりまとめると下記のような内容になっています。


歴史的にサイケデリックが人間の可能性を拡大してきたという言説(もちろん、諸説ありですが)があるにも関わらず、未だ曖昧な箇所が多くあります。また、サイケデリックの化学的な理解は進みつつあるが、規制や利権の影響で多くの進歩が阻害される現状もあります。

PsyDAOはこれらの課題や探究活動に対して、「権利」を分散化させ「アクセス」を民主化することで新しいロールモデルを確立する


サイケデリックの歴史と現状を整理し、分散化と民主化についてまとめられたマニフェストになっています。原文を見ると色々書いてはいるのですが要するに、サイケデリックの研究が進めづらいからブロックチェーンの技術を活用して、自由に資金の移動や知識をオープンに共有していこうといった活動になります。

DeSci(Decentralized science)とは?

PsyDAOの概要をまとめました。記事の冒頭で述べたようにこのPsyDAOはDeSciというムーブメントに含まれる一つのプロジェクトにあたることから「DeSci」という考え方を知ることがさらに詳しくPsyDAOを知るために重要な要素となっています。

それらを踏まえてここからはDeSciについてまとめていこうと思います。

DeSciとはブロックチェーン技術を活用して、科学研究をよりオープンにし、科学者が抱えている資金調達問題を解決するためのムーブメントになります。これはNFTやブロックチェーンといった技術名ではなくムーブメントであり、考え方になります。

分散型科学(DeSci)とは?

分散型科学(DeSci)とは、Web3スタックを用いて、科学知識の資金提供、作成、レビュー、クレジット、保存、普及のための公共インフラを公平かつ公正に構築することを目指す運動である。

DeSciは、科学者が自分の研究をオープンに共有し、その功績を称えられるようなインセンティブを与えつつ、誰もが簡単に研究にアクセスし貢献できるようなエコシステムを構築することを目的としています。DeSciは、科学的知識は誰もがアクセスできるべきであり、科学研究のプロセスは透明であるべきだという考えに基づいて活動しています。DeSciは、より非中央集権的で分散型の科学研究モデルを構築し、中央当局による検閲や管理に対してより耐性を持たせることを目指しています。DeSciは、資金、科学ツール、コミュニケーションチャネルへのアクセスを分散化することで、新しい、型にはまらないアイデアが花開くような環境を作りたいと考えています。

引用:https://ethereum.org/en/desci/

ちなみにイーサリアムの公式サイトには上記のように定義されていました。

「DeSci」は考え方であり、ムーブメントなので抽象的に説明されることがよくあります。

その抽象的な説明を理解するためには、ムーブメントが起こる背景である「研究者が抱える課題」を整理する必要があります。

研究者が抱える課題

研究者が抱える課題を整理するにあたって参考にした記事を添付したうえで話を進めていこうと思います。私は研究者ではないため本質的な課題やインサイトは見えてこないため、これらのサイトに書かれていることを元にまとめていきます。もし読んでくださっている方の中で研究者の方がいましたらフィードバックください!

参考記事
https://medium.com/@thepass_to/the-desci-ecosystem-a-comprehensive-overview-of-decentralized-science-organizations-by-thepass-488601b33bcd

この参考サイトではDeSciエコシステムの全体像をまとめてられています。そして、その中で以下の4つの課題が「研究者の抱える課題」として挙げられています。

  1. 資金調達が困難

    科学者は資金調達の申請に多くの時間を費やし、成果の量や影響力を示す指標によって資金調達の可能性が左右されます。この環境下だと新たな話題や注目を集める(お金が集まる)研究に偏りが生じ、研究成果の不十分さや再現性の問題を引き起こす可能性があります。

  2. 研究データへのアクセスの制限
    研究データの多くは有料の学術雑誌に掲載されたり、アクセス権が必要なデータベースに保管されているなど、一般の研究者がアクセスしにくい状況があります。

  3. 出版(研究内容を公開)に対して権力が集中する
    一部の学術雑誌が高額な出版費用を要求しており、研究者は自身の研究を発表するために費用を負担しなければならない状況が生じています。これにより、大手出版社の権力集中が進み、公正な知識共有が妨げられる可能性があります。

  4. 評価の偏り
    現在の科学者の評価は、論文の数や賞の受賞歴などを基にした指標に依存していますが、これにより研究の質や他にも重要な観点での評価が不足する可能性があります。

これら4つの課題は大きな問題であり、イノベーションを阻害してしまっている可能性もあります。また、領域によっては国の規制の影響を大きく受けることも問題視されます。私たちの大麻業界や今回取り上げたサイケデリックといった領域はまさに規制の影響を大きく受ける領域だと言えるでしょう。

研究者の課題とブロックチェーン

2021年頃、Web3が世界的なトレンドになりました。皆さんもWeb3関連のワードは(NFTやDAO)聞いたことがあると思います。

これらはブロックチェーンの技術を活用した考え方や取り組みで、より永続的にデータを残し、信用の担保を行なった上で取引ができる状態を作り、オープンに、来るもの拒まず、自由に経済活動を行おうといった思想で設計されているムーブメントだと私は捉えています。
(ここでは一旦、技術的な話はスキップします。)

その思想やその思想で活用されているブロックチェーンという技術を研究活動に応用しようとしている活動がDeSciになります。先ほど取り上げた4つの課題である「資金調達」「データへのアクセス制限」「情報公開における権力の集中」「評価の偏り」はブロックチェーンの技術を活用するといくつか解決できるのではないかと考えられており、DeSciへの注目が高まっています。

もちろん、必ずしも解決できるわけではないですし、正解があるわけではないのでDeSciという取り組み自体が不発に終わる可能性も大いにあります。しかし、ブロックチェーン業界は技術的発展も早く、相性がいいことは明確なのでDeSciでチャンレンジしている方々が今後研究業界にイノベーションをもたらしてくれるかもしれません。

どちらにしろ、DeSciは検証段階であり、まだまだこれからの取り組みになります。

PsyDAOの活動内容

DeSciのムーブメントの背景には「研究者が抱える課題」や「ブロックチェーンやWeb3との相性」の影響が強くあります。

PsyDAOは「サイケデリック×DeSci」のプロジェクトになるわけです。

それではここからは現在のPsyDAOの活動内容を見ていきたいと思います。

結果からまとめるとPsyDAOの本格的な活動はまだこれからで、一部のプロジェクトへの資金提供やDAOへの参加募集などが行われています。

DeSciの中で最も有名なプロジェクトであるVitaDAO(長寿研究を行うプロジェクト)はトークン発行やDAOによる投票、DAOから資金提供したプロジェクトの一覧ページの作成を完了しており、私たちでもそれらの情報を得ることができます。しかし、現在のPsyDAOのDiscordやSNS、ホームページを見る限りそこまでの情報公開は行われておらず、まだ小さく活動しているものだと推測できます。

唯一、詳しく活動内容がまとまっている動画を添付しています。添付動画の55分〜1時間5分ごろでPsyDAOの概要や現状のピッチ動画がありますが、それを見てみるとそれぞれ25万円ほどの資金提供を実施していることがわかります。

引用:https://www.youtube.com/watch?v=7dIEuNxSuaY

引用:https://www.youtube.com/watch?v=7dIEuNxSuaY

またETHDenverでは”Proof of Trip”の名でプロジェクトの宣伝活動を実施しています。かなり尖ってて好きです。

それ以外はPsyDAOの目標を達成するために開発を行なっているような内容のピッチを行なっていました。動画は2023年4月28日に公開されているのでPsyDAOの活動内容や成果が出てくるのはまだまだ先になるかもしれません。ただでさえ研究は時間がかかるので。

筆者のまとめ

ここまでPsyDAOの概要とDeSciについてまとめてきました。今回はあくまでPsyDAOとDeSciを知っていただくという目的の記事なのでこれ以上は書きませんが、どちらも仕組みを深掘りすればまだまだ興味深い情報があるので、またタイミングがあればまとめたいと思います。

私はスピリチュアル系でサイケデリックや大麻を片付けるのはあまり好きでないのですが、AIのような科学が台頭する一方でサイケデリックや大麻が注目されているように科学が進むと非科学な思考や行動へトレンドが移ります。現在は面白いタイミングなのではないでしょうか。そして、精神や脳への興味関心も強まっていることにとても興味を惹かれています。

私は大麻もサイケデリックな成分の活用はしたことがないですが、「なぜサイケデリックを信じる人が一定数いるのか」を知りたいですし、PsyDAOがその一つの方向性を見せてくれるかもと期待をしています。もちろん使えばわかるかもしれませんが、使用者じゃないからこそ気づく観点や疑問もありそうですし、よくわからない不思議なものとしてサイケデリックを捉えているとこういった記事を書く気力も湧いてきます。

今年は世界がサイケデリックに対してどのような動きをするのか。

大麻メディアでありながらサイケデリックも調べてみようと思います。

編集者

CANNABIS INSIGHT代表/編集長
世界の大麻・CBDのビジネスや経済情報を調べています。

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