CANNABIS INSIGHTの「世界の大麻事情を知ろう」インド編です。
インドの大麻事情、法律、ビジネスの全体像がわかる記事を作成しましたので気になる箇所を選びながら情報収集にお役立てください。
【この記事でわかること】
インドの大麻事情
インドの大麻に関する法律
インドの大麻と宗教・歴史
インドの大麻・CBD市場やビジネス
大麻とインドの宗教・歴史の関連性
「インドと大麻・CBDの法律/宗教・歴史/ビジネス」を見ていくにあたって、まず初めにインドと大麻の宗教・歴史を整理します。この背景を知らなければ現状を整理することができません。
ご存知の方も多いかもしれませんが、インドは、歴史的及び宗教的背景から、大麻との関わりが深い国として知られています。ヒンデュー教、インドの主要な民族宗教において、古代の聖典『ヴェーダ』には「大麻は5つの神聖な植物の一つ」として記載されています。これらの聖典は紀元前2000年から1400年頃に編纂され、大麻がインドの宗教や文化に深く根ざしていることを示しています。
インドにおける大麻は、charas(樹脂)、ganja(花)、bhang(種と葉)として区別されます。特にbhang(バング)は、バング・ラッシーやバング・タンダイという飲み物として利用され、中世のインドにおいては、兵士たちが士気を高めるためにこれを飲用していました。シヴァ神、ヒンデュー教の重要な神もまた大麻を摂取したことで若返ったという伝説が存在し、これにより大麻は宗教的な意味合いを持つと同時に、宗教観としてインド人のDNAにも深く刻み込まれています。

日本の文化との関連で触れると、神道において「麻」は伊勢神宮のしめ縄などの儀式に使用される素材として活用されました。また、日本の古典文献である「古事記」や「日本書紀」にも「麻」に関する記述が存在します。ただし、インドと日本の大きな違いは、麻を道具としての利用か、その成分としての利用かにあると考えています。
後ほども記述しますが、インドでは地域によってはいまだに「バンク」を摂取しており、インド人は使用することに対する抵抗感はほとんどないと思います。しかし、日本では摂取に対して強い抵抗感があります。どちらも「麻」との歴史は深いのに関わらずです。
その理由は摂取する習慣が歴史的にあるかないかだと考えると納得感が違ってきます。
話が脱線してしまいましたが、インドと大麻の関係は、古代の宗教や文化において非常に深く、この関連性を理解することで、現代のインドの大麻事情をより深く知ることができます。
インドの大麻規制・法律と合法化

インドの大麻との歴史や宗教を整理できたので、ここからはインドと大麻・CBDの合法化、規制、法律の現状を見ていきます。
法的定義と現状
インドの麻薬及び向精神薬物規制法(NDPS法)により、大麻の栽培、生産、所持、販売、購入、消費等の行為が規制されています。NDPS法は1985年に制定されたドラッグを取り締まる法律で、大麻の「bhang(種と葉)」を除外した規制範囲を設けています。
以下はNDPS法における大麻の定義になります。
「大麻(ヘンプ)」を意味する:
チャラス(charas)とは、大麻植物から得られる、粗製か精製かにかかわらず、分離した樹脂のことで、ハシシ油や液体ハシシとして知られる濃縮調製物や樹脂も含まれる;ガンジャ、すなわち、大麻植物の開花または結実した頂部(頂部を伴わない場合は種子および葉を除く)であって、それらがどのような名称で知られ、または指定されるものであるかを問わない。上記のいずれかの形態の大麻の、中性物質との混合物、または中性物質を含まない混合物、またはそれらから調製された飲料
大麻の定義が行われた上でNDPS法では栽培、生産、所持、販売、購入、消費等に対してこららの規制・処罰を設けています。また、NDPS法は麻薬及び向精神薬物規制法なので大麻以外の薬物への規制も制定されています。
【インドの大麻に関する法律】
- 大麻の所持: 少量の大麻を所持する場合、最長6か月の懲役や10,000ルピーの罰金、またはその両方の罰則が科せられる可能性があります。商業量を超える所持の場合、最長10年の懲役や10万ルピーの罰金、またはその両方が科せられます。
- 大麻の栽培: 個人的な使用のための大麻の栽培は許可されている地域もありますが、大規模な商業的栽培は禁止されています。
【NDPS法によって規制されているドラッグ一覧】
医薬品 | 少量 | 商業量 |
---|---|---|
アンフェタミン | 2グラム(0.071オンス) | 50グラム(1.8オンス) |
チャラス | 100グラム | 1キログラム(2.2ポンド) |
コカイン | 2グラム(0.071オンス) | 100グラム |
ガンジャ | 1キログラム(2.2ポンド) | 20キログラム(44ポンド) |
ヘロイン | 5グラム(0.18オンス) | 250グラム(8.8オンス) |
LSD | 2ミリグラム(0.031グラム) | 100ミリグラム(1.5グラム) |
メタドン | 2グラム(0.071オンス) | 50グラム(1.8オンス) |
モルヒネ | 5グラム(0.18オンス) | 250グラム(8.8オンス) |
アヘン | 25グラム(0.88オンス) | 2.5キログラム(5.5ポンド) |
大麻(その他薬物)への規制はNDPS法によって施行されていますが、実は地域によっては一部規制内容が異なることもあります。その原因としてインドは行政区画を設けており、連邦直轄領と28の州にて国が構成されていることが挙げられます。そして、連邦法を採用していることから法律が連邦法と州法に分かれます。一定の法律は連邦で決められていますが、一部箇所は州に任せているイメージになります。つまり、その州で規制の範囲を確認しなければなりません。これがインドの法律を複雑化している要因になります。
実際にインドではCBDが医療目的で販売されていますが、特定の診断証明書(処方箋に対する)を持っていないとCBDを購入できないといった規制もあります。すべての州がそのような対応をしているとは限らないので連邦・州どちらも確認しなければなりません。

インドの大麻に関する現法であるNDPS法と法律の複雑性がご理解いただけたと思います。
ここからは、なぜインドは宗教や歴史的観点から「大麻」との関連が深いのにも関わらず大麻を規制する動きがあったかをまとめていきます。概ねそれらはイギリスによる植民地時代とアメリカの薬物規制時代が大きく関連しています。
NDPS法の制定の背景と歴史
改めてインドの大麻法律である「NDPS法」について整理します。
1985年麻薬及び向精神薬取締法(Narcotic Drugs and Psychotropic Substances Act, 1985)、通称NDPS法は1985年に制定されたドラッグを取り締まる法律です。同法はインド全土に適用され、インド国外にいるすべてのインド国民、インドで登録された船舶や航空機に搭乗しているすべての人にも適用されます。定期的に法律の見直しと改定が行われており、日本の大麻取締法と比較すると柔軟に対応・議論されている法律になります。
NDPS法は1980年代の法律なので比較的最近に制定された法律になります。そして、この法律が制定されるまで様々な時代背景や外圧がありました。
【イギリスの植民地と大麻】
イギリスは植民地時代のインドで大麻が広く使用されていることに気づき、1890年代後半に大規模な調査を依頼しました。彼らは、大麻の乱用が先住民の健康を害し、彼らの精神を狂わせていることを懸念していたとのことです。
そして、イギリス政府はインド政府に対し、大麻の栽培、大麻から薬物の調製、それらの薬物の取引、大麻の消費による社会的・道徳的影響、禁止の可能性について調査する委員会の設置を要請しました。
イギリスとインドの著名な医学専門家によってインド全土にて調査が実行されました。1,000人以上への面談や何年にもわたる調査の末、インド麻薬調査委員会は大麻(バング)の使用を抑制することはまったく正当化できないと結論づけました。歴史的に古くから大麻が使用され、そしてヒンデュー教としても重要な役割である「大麻」は無害であることがこのタイミングでは証明されました。
【アメリカの薬物規制とインドの大麻政策】
イギリス政府による大規模調査から100年経たない間に次は米国からの外圧が強まってきました。
1961 年に麻薬に関する単一条約が採択された後、米国がすべてのハードドラッグとソフトドラッグに対する世界的な立法を求める運動を始めたのです。インドは一度は米国の圧力を無視して大麻を合法的に取り扱っていましたが、80年代初頭にアメリカ社会が直面した麻薬問題により、今まで以上に世界の大麻に対する意見や圧力が強まりました。
そして、インドは25年間のアメリカによる薬物規制の圧力に屈した後、 1986年に西側諸国の要求に屈し、大麻を他のハードドラッグと同一視し犯罪化することとして、麻薬及び向精神薬法(NDPS)を制定しました。
このようにインドの大麻規制を考える上で重要な時代背景がありました。宗教や歴史的に大麻との強い関連性があるにも関わらず、大麻やCBDへの規制が厳しいのにはイギリスの植民地時代とアメリカの外圧(こちらが主な理由)の出来事が影響しています。そして、NDPS法と現在のインドの法律の複雑性、そして歴史や宗教との兼ね合いなど様々な要因がありながらインドという国の中に大麻が存在しています。
法改正への動き
近年、医療や嗜好目的での大麻の使用を合法化する国や地域が増えてきたことを受け、インド国内でも法改正の議論が活発化しています。一部の政治家や活動家は、大麻の医療的利益や経済効果を前面に押し出し、合法化を訴えています。
インドの大麻・CBDビジネス
インドの大麻・CBD市場は年々成長しており、年間成長率は16%で2028年には1億7000万ドルの市場規模になると予測されています。また、インドには1億2500万人が何かしらの形で大麻を摂取しているとされており、インドにおける大麻市場は非常にホットです。世界の合法化の流れや経済的なメリットが強くなるとインドの大麻市場が急激に成長するかもしれません。
インドのCBD特化のECサイト「BOHECO」を見てみると、大体は日本のCBD ECサイトと同じような構成になっていますが、カートに商品を入れる際の導線が異なります。
「処方箋の証明証をアップロードする」か「専門家の相談を受ける」という選択肢がポップアップで表示されます。また、インドでは処方箋を有する場合にCBDを購入することができることからCBDブランドのECサイトには「This is a prescription-based product」という注意書きが記載されています。

引用:https://boheco.com/products/combat-for-severe-chronic-neuropathic-pain-10ml?variant=44314312671445

引用:https://boheco.com/products/combat-for-severe-chronic-neuropathic-pain-10ml?variant=44314312671445
インドの畑から採取されたBOHECO COMBATは、フルスペクトラムの大麻の葉エキスで構成されており、1mLあたり1:2の割合で90mgの主要カンナビノイド(30mg/ml CBD)と、その他のマイナーカンナビノイド(CBG、CBNなど)が含まれています。
こちらの商品の詳細になります。10mlで約10%ほどのカンナビノイド含有量で(CBD300mgほど)で約6000円という価格になっています。日本市場の価格と比較とすると高価格な商品となっています。もちろん、ブランド価値も入っているので一概に比較できるものではないですがこの商品に限っていうとインドのCBD製品は価格が高いと感じます。
【詳細】
インドの大麻・CBD市場は伸びつつあり、ブランドやECサイトが数多くある。一方で処方箋の証明書を提出するなど国の規制に合わせたサイトデザインが実装されており、独特な大麻・CBD市場があることがわかります。インド市場はポテンシャルを持っているので今後どのような市場になるのか注目です。
まとめ|インドの大麻事情、法律、ビジネス
ここまで、「歴史と宗教」、「法律と法律制定までの背景」、「大麻・CBD市場とビジネス」を見てきました。複雑な規制や宗教観、歴史が大麻と関わりつつあるものの、非常にポテンシャルを大きく感じる国だと私は思いました。大麻の規制は国によって大きく異なるため渡航をする際は気をつけなければなりません。一方でその国の大麻の歴史や背景を知っていると旅も面白くなるはずなので今回の記事はそのような小ネタの一つにしてもらえると嬉しいです。


【参考記事】
- गांजा पर क्या है कानूनी प्रावधान : https://onl.bz/djpqJPU
- Cannabis – India:https://www.statista.com/outlook/hmo/cannabis/india
- History of Cannabis in India | Psychology Today:https://www.psychologytoday.com/intl/blog/the-teenage-mind/201106/history-cannabis-in-india
- 法制度の概要 – BUSINESS LAWYERS:https://www.businesslawyers.jp/articles/57