今回の記事は、世界中の宗教における大麻の扱いについてまとめてみました。
宗教は信仰者の行動や価値観に大きな影響を与えるため、大麻の使用が長い宗教の歴史の中でどのように解釈されているかを知ることはより大麻の文化や歴史を知る上で欠かせないテーマになります。
本記事では、キリスト教、イスラム教、神道、ヒンドゥー教、ゾロアスター教における大麻の位置づけを考えます。宗教によって大麻が聖なるものとされる場合もあれば、規範に反するとされる場合もあります。それぞれの宗教が大麻をどのように見ているのか、その歴史的背景や教え、社会への影響も含めて解説します。
キリスト教
禁止されている?
キリスト教において、聖書は具体的に大麻やその他の薬物について明言していません。しかし、聖書の原則や教えに基づき、嗜好目的での薬物使用は容認されていないとされています。クリスチャンは以下の理由から薬物使用を避けるべきとされています。
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地上の法律への従順: 政府の法律に従うことが求められます。例外は、その法律が神の命令に反する場合のみです。
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良き管理者としての責務: 神から与えられた身体を健康に保つ責任があり、違法薬物は健康を損ねる可能性があります。
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誘惑への抵抗: 悪魔の策略に注意し、精神的・肉体的な支配を避けるべきとされます。薬物中毒は信仰生活に悪影響を及ぼすとされています。
キリスト教と大麻の説明
聖書は薬物の使用を明確に禁止しているわけではないものの、以下のような原則を通じて間接的に否定しています。
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節制: 「慎み深く、正しく、敬虔に生活する」ことを説く(テトス2:12)。
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体を神の神殿と見る考え方: 身体を大切に扱う責任があるとされる(1コリント6:19-20に基づく解釈)。
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健康と精神の管理: 神から与えられた資源や能力を最大限活かすべきであり、薬物はこれに反する行為と見なされる。
結論として、聖書そのものに大麻や薬物に関する具体的な記載はないものの、その教えや原則に基づいて、クリスチャンにとって薬物使用は信仰生活の妨げになる行為とされています。
イスラム教
禁止されている?
イスラム教において、大麻の使用について明確な禁止が存在するかは解釈に依存します。教典に大麻への具体的な言及はありませんが、多くのイスラム法学者は類推を用いて判断しています。
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多くの学者の見解: 大麻を完全に禁止とはせず、医学的用途においては条件付きで許容される場合があると考えられています。
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酩酊目的の場合: 一般的に禁止される傾向がありますが、宗教的および社会的背景によって解釈が分かれます。
イスラム教と大麻の説明
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歴史的背景: 大麻はイスラム以前から中東で使用されており、医学や宗教的儀式で用いられてきました。13世紀以降は一部の宗教派で嗜好品としても使用されていましたとされます。
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現代の法と宗教: 現代では、ほとんどのイスラム国家が大麻を厳しく規制していますが、一部では改革が議論されています。特にイランでは、大麻を医療目的で合法化する動きが宗教的解釈と政策論の両面で進行しているそうです。
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宗教的解釈の柔軟性: シーア派の法学者たちは、大麻が医学的に証明された用途で使用される場合、それを許容する傾向があります。一方で、酩酊目的の使用は避けるべきとされています。
結論として、大麻に関するイスラム教の立場は一律ではなく、歴史や宗教的背景、そして社会的状況に応じた多様な解釈が存在します。
神道
禁止されている?
神道において、大麻の使用は儀式的・宗教的な文脈で肯定的に扱われており、宗教的には禁止されていません。ただし、現代日本の法律により、大麻の栽培や使用には厳しい規制が課されています。
神道と大麻の関係の説明
神道において、大麻は以下の理由で神聖な植物とされています:
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清浄性: 大麻は穢れを祓う力を持つとされ、儀式や神具(例: 大麻〈おおぬさ〉や注連縄)に使用されてきました。
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生命力の象徴: 大麻の強い生命力は、魂や神の依り代と見なされています。
大麻は神道の伝統に深く根ざしており、古事記や古語拾遺などの文献にもその役割が記されています。例えば、大嘗祭で献上された「麁服(あらたえ)」は、大麻織物で作られた神衣でした。大麻は、神聖な儀式や神具において重要な役割を果たしてきた植物です。また神社のしめ縄など、いまでも麻繊維が使われている神具があります。
ヒンドュー教
禁止されている?
ヒンドゥー教はインドを起源とする世界最古の宗教のひとつです。この宗教では、大麻の使用は明確に禁止されていません。むしろ、宗教的儀式や薬効を目的として伝統的に用いられてきました。
ヒンドゥー教と大麻の関係
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シヴァ神との関連: ヒンドゥー教の伝説では、大麻はシヴァ神に深く結びついており、シヴァ神は「バングの主」と呼ばれるほどこの植物を好む存在とされています。
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宗教儀式と薬効: 古代ヒンドゥー教徒は、大麻を使用することで神々を喜ばせ、病気を癒す力を得ると信じていました。特に、熱病は怒った神々の「熱い息」によって引き起こされるとされ、大麻を用いた儀式で神々をなだめ、熱を下げる効果を期待していました。
ヒンドゥー教では、大麻は宗教的・医学的に重要な植物とされてきました。
ゾロアスター教
禁止されている?
ゾロアスター教は紀元前6世紀ごろに誕生した世界最古の宗教です。ゾロアスター教において、大麻を指すと考えられる「マン(bhanga/mang)」の使用は、禁止されていませんでした。むしろ、宗教的啓示や霊的探求のために社会のエリート層で使用されていました。しかし、イスラム教の台頭とともにその使用は衰退しました。
ゾロアスター教と大麻の関係
ゾロアスター教の聖典には、「マン」と呼ばれる物質への言及があり、大麻を指すとされています。この物質は以下のように使われていました:
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幻視体験と霊的探求: 「マン」は宗教的儀式や啓示のために使用され、摂取した人は魂が天国や地獄を旅すると信じられていました。
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重要な宗教的啓示: ゾロアスター教の信者である当時の王が「マン」を摂取して宗教的啓示を得たとされるほか、預言者ゾロアスター自身もこれを摂取して霊的な飛行を経験したと伝えられています。
まとめ
大麻に対する宗教的な見解は多種多様であり、それぞれの文化や歴史的背景に根ざしています。キリスト教やイスラム教では、大麻の使用は基本的に否定的です。一方で、神道やヒンドゥー教では、大麻は宗教儀式や薬効を目的として伝統的に用いられてきました。ゾロアスター教においても、大麻は霊的体験や啓示のために重要視されていました。
現代においても、大麻の合法化や規制に対する宗教的観点は議論が続いています。本記事を通じて、大麻と宗教の関係を深く理解するきっかけとし、これらの多様な見解がどのように社会に影響を与えているのかを考えるきっかけとなれば幸いです。
参考文献
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Ghiabi M, Maarefvand M, Bahari H, Alavi Z. Islam and cannabis: Legalisation and religious debate in Iran. Int J Drug Policy. 2018 Jun;56:121-127. doi: 10.1016/j.drugpo.2018.03.009. Epub 2018 Apr 9. PMID: 29635140; PMCID: PMC6153265.