医療用大麻に関連するカンナビノイド医薬品は、特定の病状に対する処方薬として注目を集めています。本記事では、FDA(米国食品医薬品局)によって承認された4つの主要なカンナビノイド医薬品について、開発企業、承認年、適応症を中心に詳しく解説します。医療用大麻の利用は、治療効果とともに規制の変化が進む中、患者や医療関係者にとって重要な選択肢となりつつあります。
医療用大麻は、大きく3つのカテゴリーに分けることができます。以下は「諸外国における医療大麻の分類と法規制の枠組みに関する研究」を参考にしています。
- ヘンプ由来CBD製品
ヘンプから抽出されたCBDを含む製品で、THCの含有量が法定基準(0.2%~1.0%)以下の大麻草を使用しています。食品として流通しているため、特定の病気に対する効果を謳うことはできませんが、さまざまな症状に対する有効性が報告されています。 - カンナビノイド医薬品(処方薬)
大麻草に含まれる有効成分を精製した医薬品で、THCの含有量に制限はありません。これらの医薬品は、医療用麻薬として管理されており、例として合成カンナビノイド製剤のマリノール(ドロナビノール)や天然大麻由来製剤のサティベックス(ナビキシモルス)などが挙げられます。 - 大麻由来製品(狭義の医療大麻)
THCの含有量がヘンプの基準を超える大麻草から作られた製品で、乾燥草花穂、オイル、クリームなど、様々な形で提供されます。
なお、医療用大麻に関する規制や流通は国や地域によって異なり、医療保険の適用範囲も同様です。
今回は2の「カンナビノイド医薬品(処方薬)」について詳しく記事としてまとめてみました。なお日本国内において、現行の大麻取締法では、大麻から製造された医薬品の施用・受施用、規制部位から抽出された大麻製品の輸入が禁止されているため、現在カンナビノイド医薬品は認められていません。
開発企業、承認年(主にFDA・アメリカ食品医薬品局)、概要についてまとめています。
4つのカンナビノイド医薬品についての概要
薬剤名 | カテゴリー | 一般名 | 投与経路 | 主な適応 |
---|---|---|---|---|
マリノール | 合成カンナビノイド製剤 | ドロナビノール | 経口 | 抗がん剤治療に伴う吐き気・嘔吐の抑制、AIDSによる体重減少を伴う食欲低下 |
セサメット | 合成カンナビノイド製剤 | ナビロン | 経口 | 抗がん剤治療に伴う吐き気の抑制 |
サティベックス | 天然大麻由来製剤 | ナビキシモルス | 舌下 | 多発性硬化症の症状緩和 |
エピディオレックス | 天然大麻由来製剤 | カンナビジオール | 経口 | ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群などの難治てんかん |
エピディオレックス(Epidiolex)
開発企業
エピディオレックスは、GW Pharmaceuticals(子会社:Greenwich Biosciences)によって開発されました。現在では GW PharmaceuticalsはJazz Pharmaceuticalsに買収されています。
承認年
FDAがエピディオレックスを承認したのは、2018年です。
概要
エピディオレックスは、植物由来の精製された医薬品グレードのカンナビジオール(CBD)です。
- Δ9-テトラヒドロカンナビノール(Δ9THC)は含まれていません。
- CBDのみで構成されているため、高揚感のような体験(いわゆる「ハイ」)を引き起こすことはありません。
エピディオレックスは、2歳以上のドラベ症候群(DS)またはレノックス・ガストー症候群(LGS)の患者を対象とした、難治性てんかん発作の治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)によって承認されています。
- 4つのピボタル試験において、痙攣発作と脱力発作の頻度を有意に減少させることが示されました。
- 頻度の高い副作用(10%以上)は、傾眠、疲労感、発疹、食欲減退、下痢、不眠症、感染症、トランスアミナーゼ上昇などです。
参考情報
Epidiolex (Cannabidiol) Primer: Frequently Asked Questions for Patients and Caregivers
マリノール(Marinol)
開発企業
マリノールは、米国Unimed Pharmaceuticals (ユニメッド・ファーマシューティカルズ)によって開発されました。 ユニメッド・ファーマシューティカルズ社は、その後、ソルベイ・ファーマシューティカルズ社の傘下に入り、最終的にはアッヴィ社に買収されています。
承認年
マリノールは、1985年に、抗がん剤治療に伴う難治性の吐き気・嘔吐を適応としてFDA(米国食品医薬品局)の承認を得ました。 1992年には、AIDSによる体重減少を伴う食欲低下にも適応が拡大されています。
概要
マリノールは合成デルタ-9-テトラヒドロカンナビノールであるドロナビノールを含有するカプセル剤です。 デルタ-9-テトラヒドロカンナビノールは、マリファナにも含まれる天然成分ですがマリノールは化学合成によって作られています。 中枢神経系に作用し、食欲増進、吐き気・嘔吐の抑制などの効果があります。
マリノールの使用には、眠気、浮遊感、めまい、集中力の低下、口の渇きなどの副作用が現れる可能性があります。 また、高血圧や低血圧、失神、頻脈などの心血管系への影響も報告されています。 マリノールは、習慣性や依存性がある可能性も指摘されています。
参考情報
サティベックス(Sativex)
開発企業
サティベックス(ナビキシモルス)は、イギリスの会社GWファーマシューティカルズ(GW Pharmaceuticals)によって開発されました。現在では GW PharmaceuticalsはJazz Pharmaceuticalsに買収されています。
承認年
カナダ保健省がサティベックスを承認したのは2005年です。まだFDAで承認はされていないようです。
概要
サティベックスは、植物由来のカンナビノイド口腔スプレーです。 スプレー1回あたりTHCを2.7mg、CBDを2.5mg含有しています。 THCとCBDの比率がほぼ等しいため、THCの精神活性作用をCBDが抑制し、精神への影響を抑えながら効果を発揮すると考えられています。
承認されている主な効能効果は次のとおりです。
- 癌性疼痛の成人
- 多発性硬化症に伴う痙縮または神経障害性疼痛の成人
小児におけるサティベックスの有効性と安全性に関する公表された研究はありませんが、臨床現場では、疼痛、悪心/嘔吐、痙縮などの症状に用いられています。
参考情報
セサメット(Cesamet)
開発企業
Eli Lilly(イーライリリー社)は1985年に、抗がん剤治療に伴う難治性の吐き気を適応症として、合成カンナビノイドであるセサメット(ナビロン)のFDA承認を取得しました。その後、Valeant Pharmaceuticals International社(現Bausch Health)がEli Lilly社からセサメットの権利を取得しています。
承認年
1985年にFDAはセサメットを化学療法に伴う悪心・嘔吐の治療薬として承認しました。
概要
セサメットは、経口投与用の合成カンナビノイドです。 癌化学療法に伴う悪心や嘔吐の治療薬として使用されます。 従来の制吐剤による治療が十分に奏効しなかった患者に適応となります。 これはセサメットを投与された患者群のかなりの割合で、他の制吐剤では見られない、精神錯乱を引き起こすような精神作用が認められるためです。
推奨用量範囲ではリラックス効果、眠気、高揚感を引き起こします。 これらの効果に対する耐性は急速に発現し、容易に回復します。 精神状態への影響に加えていくつかの全身作用があり、最も顕著なのは口渇感と低血圧です。
セサメットはスケジュールII規制物質法のスケジュールIIで規制されているナビルンを含んでいます。 スケジュールII物質は乱用される可能性が高いため、セサメットの処方は、1回の化学療法サイクル(数日間)に必要な量に限定する必要があります。
参考情報
CESAMET™ (nabilone) Capsules
https://go.drugbank.com/drugs/DB00486
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